愛車を自分好みに作り上げていく楽しさは誰もが知っているだろう。でも旅を愛する人がカスタムするなら、旅性能をスポイルさせないことが大前提だ。では旅に必要な性能とは何か。その答えを走りながら見つけるビルダー、樋渡治。アールズギアブランドで製作したパーツを装着し、年間数万kmをGSで走る同氏。そのモノづくりの真髄を確かめるべく、山田純氏が樋渡治氏と旅に出た。
私は、樋渡 治さん率いるアールズギアの製品をかなり前から使用している。彼の会社、というより工房といったほうが正しいと思える職人集団が生み出す製品は、いずれも高いクオリティを保っているからだ。
今回テストさせてもらったのは、彼の作品の中心的な製品である、チタン製のフルエキゾースト・システムと、ノーマル・エキゾーストパイプに装着するスリップオン・マフラーの2点。
チタン製フルエキゾーストは、すでに私の所有する2013年製BMW R1200GSに装着していて、今回の新製品との印象の違いも確認できるはずだ。
新型は、サイレンサーの形状、後部の出口のパイプとそれを囲むように成型されたあたりが私の装着しているものと異なるのが、すぐわかる相違点だ。
テストは、樋渡さん所有のR1200GS・ADV(アドベンチャー)で行わせてもらった。
スターターボタンを押して、エンジンが掛かると、私のR1200GSよりわずかに元気なサウンドが響いてきた。それでも、音量そのものは、ノーマル・マフラーより静か。これこそ、彼が作るエキゾースト・システムの第一の特徴である。
住宅街でも目くじらを立てられないほどというのが、私は好きだ。スロットルを軽く開けても、ノーマルの「ヴァンッ」という雑味のある音ではなく、「ヴォ-ンッ」という感じの澄んだサウンド。
ギアを入れてクラッチをミートすると、2,000回転以下のトルクの出方がいいのだろう、スムーズなスタートができる。
ノーマルだと、クラッチのミートの時に、回転が落ちそうでややもすると回転をあげたくなることが多い。
R1200GS・ADV(アドベンチャー)は、R1200GSよりサスペンションストロークが長く、ストローク初期の動きが柔らかく、長距離がとても快適。そのサスペンションの特性と、今回の新しいフルエキゾースト・システムは、最良のマッチングを見せてくれた。
樋渡さんのR1200GS・ADVのESA、そしてMODEの設定は、それぞれ「ハード」、「アドバンス」という、もっともアグレッシブなもの。この設定だと、ノーマル・エキゾーストシステムでは慣れていないと、なかなかスムーズに走らせることは難しい。
しかし、彼のエキゾースト・システムだと、無茶な開け方をしない限り(なにしろパワーはふんだんに出てくるから)、パワーは穏やか(遅いという意味ではなく、あくまでジェントル)に湧き出てくるので、直線からコーナーの進入のためのブレーキング、また寝かし込みや切り返しといったバイクのコントロールに集中できる。
ノーマルだと、4,000~4,500回転あたりにあるトルクの谷(やや反応が鈍くなる)がないことで、そういった操作もしやすく、車体が路面に押し付けられている力の変化も少ないために、安定性がノーマルよりさらに向上しているのが頼もしい。思わず、頬が緩んでくるほどだ!
スリップオン・マフラーというと、力強さを求めるというより、エキゾーストサウンドの高まりによる高揚感によって、ノーマルより走りが良くなったと感じることが多いのではないだろうか。
だが、アールズギアが作るスリップオン・マフラーは、そういったこれまでの概念を覆すだけの性能と特性を備えていた。
私は、この新しいスリップオン・マフラーのテストのために、テストの前日にアールズギアのファクトリーに出向き、長く使っているチタン製フルエキゾースト・システムをR1200GS純正のノーマル・エキゾースト、マフラーに交換しておいた。
このノーマル・マフラーで70~80kmほど走ったが、4,000回転プラスで振動がシートやステップに出るのと、走り出すときのトルクがちょっと少ないので、もたつくことはないものの、なんとなく喉の奥に魚の小骨が刺さっているかのような引っかかりを感じてしまい、回転を上げたくなる。
スリップオン・サイレンサーと、ノーマル・サイレンサーとの違いは最初に述べたようにサウンドが変化することが中心で、それによる出力などの変化は、あまり期待できないことが多いのも事実だ。
だが、今回テストしたアールズギア製のスリップオン・サイレンサーは、明確にアイドリングちょい上から力強さが増していて、そのまま綺麗に吹け上がっていくのである。
確かに4,000~4,500回転あたりで少し振動が出るのは、ノーマルと同じだが、吹け上がりの気持ち良さは、爽快のひとことに尽きる。もちろん、フルエキとまったく同じではないものの、スリップオンでこれだけ気持ち良く走れれば、その価格以上の満足感は十分に得られるはずだ。
ロングツーリングを楽しくしてくれるツールの最初のステップは、走らせるバイクをどう選ぶかだろう。もちろん、走る目的がどんなものかで、選ぶバイクはいくらでも変わってくる。
・あちこちのワインディングをつないで、コーナリングの楽しさを追求していく。
・高速道路を多めに利用して、遠くの目的地にある美味しい食事を目指す。
・下道主体で景色を楽しみながら淡々と距離を重ねていく。
・オフが大好きで、あちこちの林道を散策、走破することに無類の楽しさを求める。
・そして、できるだけ多くのシチュエーションで楽しめるバイクを選ぶ。
・キャンプが好きだから、そんな大きな荷物を積載しても目的地まで快適に走れることに重点を置く。
・雨の日は走らないから、晴天の日に自分をアピールできるバイクが欲しい。
なんて、目的や使用条件に合わせて好みのバイクを選んでいけばいいと思う。だが、自分の好みに合わせて購入したバイクすべてのスペックや作りが完璧とは限らない。
例えば、四輪車であればシートの前後、高さ、背もたれの角度、ハンドルの高さなどを自分の体格に合わせて変えることができるのが当たり前だ。しかし、バイクの場合、それらを調節できるのは、ごく稀といっていい。
そういったときに頼りになるのが、カスタムやモディファイをしてくれるショップやパーツを製作販売してくれる会社だ。
今回テストさせていただいたアールズギアも、そんな会社のひとつ。樋渡さんの会社の特徴は、すべての製品が車検対応なので、安心して購入できるところだ。
そして、どんなバイク、モデルに限らず、彼自身がテストして満足いったものしか商品化しない、という点にある。
さらに、彼と彼のスタッフたちが作る製品すべてのクオリティが、驚くほど高いレベルでまとめられているということだ。
私が考えるには、そこには確かな理由があると思う。
それは、彼が作り出す製品に対するこだわりで、高い性能や品質はもちろん、なぜそれが必要でそんな形をしているのか、そして誰がどのように使ったときに求める性能や特性が得られるかをとことん追求しているからだ。
そして、彼自身S社のワークスライダーで、世界GPマシンの開発、テストをしていたことで、ワークスマシンに求められる最高の性能とクオリティ、見た目の美しさまで含めたパーツの数々に接し、使い、そしてリクエストを重ねることで、より良いマシンに仕上げていった手腕も大きな要素だろう。
今彼は、自身の開発制作したパーツを装着したバイクで、長距離ツーリングを楽しみながら、また新しいパーツや商品のアイデアを練っているはずだ。
R1200GS用ワイバンコンフォートシート。ライダー用としてできるだけ座面をフラットな形状とすることで、座る位置が固定されず前後に移動できる。このコンフォートシートは受注生産品で、オーナーの使い方や体格、希望などを考慮してワンオフ製作される。気になる方は相談してみよう。
ハンドル位置をノーマル比17mmアップ、31mmバックに設定できるラクポジ・ハンドルブラケットTYPE1。○3万5,640円:R1200GS用(2013~)
※写真はTYPE2
スタンドハイトブラケットは、左側通行の日本の路面の傾斜での車体の傾斜を緩和してくれるので、引き起こしが楽になる。○1万4,580円:R1200GS用(2013~)
ローダウンステップはノーマル比で12mm低く、膝の曲がりが少なくなるので疲労軽減効果がある。○2万5,920円:R1200GS用(2013~)
※R1200GS Adventure用も近日発売
アマチュア無線ユーザーも多いBMW。これは無線機用のアンテナステーだ。アースをしっかり取る設計なので、受信感度向上やノイズ軽減が見込める。トップケース幅に合わせて、ショートとロングの2種類を用意。○1万4,580円:R1200GS Adventure(2014~),R1200GS(2013~)
足つきに不安のあるオーナーに人気のローダウントルクロッド。約10mm車高を落とすことができる。カラーは写真のドラッグブルーのほかにシルバーとブラックを用意。○4万9,680円:R1200GS Adventure(2014~),R1200GS(2013~)