18歳と20歳、2人の若手ライダーの起用で8耐に挑むTeam Tras Part.1 ライダー田所隼
- 掲載日/2017年07月26日【トピックス】
- Photo / VIRGIN BMW Text / Takeshi Yamashita
2017年の鈴鹿8耐に挑むTeam Tras。8耐はスプリントとは違って8時間の長丁場を走り切るレースであり、ライダーにはスピード以上に「経験」も求められる舞台だ。そんな世界屈指の過酷なレースに18歳と20歳という若いライダーを起用したTeam Tras。果たしてその狙いとは?
若手ライダー起用で8耐に挑むTeam Tras
Team Tras135HP代表・新田正直にとって、今年は16年目の鈴鹿8耐だ。2002年にBMW R1100Sで参戦して以来、レギュレーションの都合で参戦できない年もあったものの、2006年にはK1200Rを走らせてクラス優勝を果たすという快挙を成し遂げている。 2010年に登場したS1000RRにマシンを変更すると、それからは常に世界耐久戦ポイントを手中に治める中堅チーム(20位以内での完走)となり、いまや着実にシード権を獲得する鈴鹿8耐のレギュラーチームである。 「モータースポーツのおもしろさを若い世代にもっとアピールしていきたい」 そう話す新田は今年、ライダーの若返りを図った。トップライダーには全日本ロードレースや鈴鹿8耐経験も豊富な45歳のベテラン・星野知也を擁するが、残る2名のライダーには20歳の山元聖、18歳の田所隼を起用した。
「8耐のライダーはベテラン勢が多く、若手が少ない。たとえシートが空いていてもチームやメーカーのしがらみがあってチャンスを掴めないという場面も見聞きしてきた。でもBMWならその不安は比較的少ない。もちろんチーム同士の話し合いは必要だが、今回はそのあたりもスムーズに進んだ」 全日本ST600に参戦している山元と田所だが、鈴鹿8耐は初めてだ。新田は6月某日、彼らを連れてBMWジャパン本社を訪ね、日本でのレース活動をしている本社スタッフに引き合わせた。 「耐久レースは体力勝負の側面もあるから、彼らの若さと体力に期待は高まる」 長年に渡って鈴鹿8耐のピット活動を支えてきたBMWジャパンのテクニカルマネージャー・平野司は、山元と田所の意気込みにそう応える。
「若手たちにバトンを渡したい」 新田がいう若手へのバトンとは、モータースポーツに限らずツーリングシーンを含めたバイク全体にいえることだ。いや、それだけにとどまらない。中高年世代がやってきたこと、楽しんできたことを若い世代にどう伝えていくかというテーマは、超高齢化社会が不可避といわれる日本社会全体の課題でもある。 だからといって新田は彼らに近道や抜け道を提示したのではない。あくまでチャンスを渡しただけである。 「最低限の目標は来年のシード権。でも今年のチームなら11~12位を狙える力を持っている」
これまでもTeam Tras135HPのライダー選定に妥協はしていない。それでも過去最高順位は15位(世界耐久戦ポイント獲得圏内)であるから、新田が山元と田所に渡した「鈴鹿8耐を走るチャンス」は、決してただの甘い蜜ではない。 「レースだからもちろん結果も大事だが、結果を出すだけならレースをやる意味はない」 ひとつでも上のリザルトを狙うこと。そのために最大限の力を発揮すること。そして、山元と田所がTeam Tras135HPと鈴鹿8耐という環境で、ライダーとしてさらに強く、大きくなるための何かを掴み取ること。新田が彼らに期待しているのはそういうことだ。
「目標のひとつが叶いました。やりたいことは言葉にしてまわりに話すほうがいいんだなと実感してます」 18歳の田所隼は、鈴鹿8耐初出場に関してそう話す。父親がバイク好きだったこともあり物心ついたときからミニバイクに親しみ、河川敷で走っていた。小学5年生で青木宣篤が主宰するクラブチームへ加入し、カートコースを走りはじめた。走るたびにタイムアップすることが楽しく、1年後にはキッズ50でシリーズ戦にデビューする。中学生になると身長が伸びたことでクラスアップし、HRCトロフィーに参戦。タイムに伸び悩んだ時期もあったが、GPライダーも同じような経験をしたうえでトップカテゴリーまで上り詰めたことを知ると、何かが吹っ切れたという。
「CBR250Rドリームカップを走るようになって、1年目はまだまだ行ける感触があったんですけど、2年目から強いチームが増えてきたこともあって、また伸び悩むようになってしまったんです。その頃、今も在籍しているTEAM PLUSONE(チームプラスワン)の方から、進入ブレーキの強さを見てると600ccのほうが向いてるんじゃないか、と言われたんです」 彼自身、大排気量マシンのほうが向いているのではないかと感じていたこともあり、ST600へのステップアップを決めた。2015年、田所は16歳だった。
「高校を卒業したらライダーとしてやっていこう、とそのときに決意しました」 誰もが安定を目指し、リスクを回避してスマートに立ち回ることが美徳とすら言われるこの時代にレーシングライダーを目指す。十代だからこその若さや勢いも当然あるだろうが、時代の空気や価値観など無関係にやりたいこと、夢に立ち向かっていくその姿勢に、思わず中年の心がざわめく。忘れていた何かにガツンと頭を殴られたような気さえしてくる。新田が彼を起用した理由も同じなのだろう。 田所が鈴鹿8耐を初体験したのは中学生のときだったという。青木宣篤のチームのサポートとしてピット入りし、ライダーやメカニックがひとつの目標に向かってたらたらと汗を流し続ける場面を目の当たりにした。 「生で見る8耐に感動しました。もしも自分がライダーだったら……と想像してたらたまらない気分になったんです。次の年に国際に昇格できたので、8耐ライダーになる自分が見えてきたと思ったら、18歳にならないと出場できないことがわかってガッカリしました」
その年はチームプラスワンの鈴鹿4耐に帯同した。8耐ライダーになりたいという思いはますます加熱した。「絶対に来年は出るぞと誓って、言葉にするようにしたんです」 新田が若手を探していることを知った星野が、田所を推薦したのはそういう経緯からだ。 「鈴鹿8耐での目標は来年もシード権を取ることです」 シード権を得るには、予選のトップ10トライアルに残ること、あるいは決勝を20位で完走することだ。 「できるなら去年よりひとつでも上の順位、シングルを狙っていきたいです」 GPライダーになることを目指しているが、それよりも「一番になることが目標」と田所は言う。Team Trasのこれまでの最高位は15位。新田の目標と合わせればそれは十分に可能性のある目標だ。 夢を達成するには、まず言葉にすること。それに向かって突き進むこと。田所は今、鈴鹿8耐本番に向けて突っ走っている。
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