ダイネーゼの一部ウエアで使用されているDドライ(D-Dry)という素材をご存じだろうか? この素材は、同社のジャケットやパンツ、グローブでも使用されている防水透湿素材の名称だ。Dドライは製品の生地に挟まれている厚さ1mmにも満たない薄いフィルムだが、耐水圧1万mmH2O以上を誇る超ハイテク素材だ。
耐水圧とは、生地の上に1平方cm四方の柱を立てて、柱の内部に水を入れていった場合に、水の高さが何mmになったら水が浸み出すかを表す指数。仮に耐水圧1万mmH2Oならば、水柱の高さが10mでも水は浸み出さないということ。ダイネーゼは耐水圧を確実に保証できる「最低値」として1万mmH2Oを公称しているが、テスト環境では2万mmH2Oの防水力を発揮しているという。
こうした高い防水性能を誇る素材では、アメリカの大手化学会社「W.L.ゴア&アソシエイツ社」が開発したゴアテックスが有名だ。ダイネーゼをはじめとする多くのブランドが採用するが、ここで疑問なのはすでにゴアテックスのようなハイテク素材があるのに、なぜ自社で開発を行ったかだ。
例えば、ゴアテックスのような特許素材を使用する際にはパテント料が発生するため製品は高額になる。しかしもっと手頃な値段で同等の素材を開発できれば、より多くのライダーに高性能ウエアが行き渡る。この公共性の追求ともいうべきブランド哲学は、Dドライ開発の大きな原動力のひとつだ。
もちろん、そこには技術力も欠かせない要素なのだけれど、いまや彼らはNASAと共同で有人火星飛行用の宇宙服開発を手がけるほど。バイクウエアブランドとしての枠をはるかに超えた分野でも活躍している。
こうした彼らならではのバックボーンがDドライを生み出したのだが、その歩みは決して止まることはない。今年後半にはスキーウエアの分野でDドライ・プラスという新素材が投入される。Dドライ・プラスは、Dドライをさらに発展させた3レイヤー構造の独自素材で、現行Dドライを凌駕する耐水圧3万mmH2Oを達成。市場で一定の評価を得られれば、すぐにでもバイクウエアへも搭載されるだろう。
バイクにウインタースポーツ、そして宇宙の世界。様々な分野での研究開発が相互に作用して新たな商品のアイデアに。創業時から一貫してブランドの根幹を支えてきたのは、常に新しい技術を自ら開発して世に問うというものづくり精神にほかならない。