Rナインティ スクランブラー(2016-)
- 掲載日/2017年01月06日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad Japan 取材・写真・文/山下 剛
空冷ボクサーの醍醐味を気負わず
楽しめるRナインティ スクランブラー
空冷ボクサーエンジンを搭載するロードスポーツ「Rナインティ」をベースとした派生モデル第1弾となるモデルが「Rナインティ スクランブラー」だ。
エンジンとメインフレームの基本部分を共通としながら、前後ホイール、前後サスペンション、マフラー、燃料タンク、キャスター角などが変更されている。ホイールについては前後ともにアルミキャストとなるほか、フロントは17インチから19インチに大径化され、スクランブラーらしさのある緩やかなハンドリング特性としている。
スクランブラーという名称は、かつて舗装路がまだ少なく、道路の大部分が未舗装路だった時代、オンロードバイクをベースにオフロードを走りやすくするために改造したバイクのことをそう呼んだ。つまり現代でいうデュアルパーパスマシンの先祖であり、1950~70年代のイメージで仕上げたデュアルパーパス(オンオフモデル)がスクランブラーというカテゴリーのバイクだ。
その特徴はブロックタイヤ、ストロークの長い前後サスペンション、アップマフラー、幅広なハンドルバーとアップライトな乗車姿勢といったところで、Rナインティ スクランブラーはオンロードタイヤこそ履いているものの、スクランブラーマシンとしての特徴を盛り込まれたBMWボクサーである。
Rナインティ スクランブラーの特徴
向上した走行安定性とアップライトな乗車姿勢を
作り出す独自のディメンション
まず、Rナインティからの変更された点を見ていこう。
足周りでは、フロントホイールの大径化とステアリングヘッド角度の変更、それに伴うホイールベースの延長だ。フロントホイールは17インチから19インチになるとともにワイヤースポークホイールからアルミキャストホイールとなり、ステアリングヘッド角度は64.5度から61.5度に、ホイールベースは1,476mmから1,527mmへとそれぞれ変更された。また、リアホイール径は17インチのままだがリム幅は5.5から4.5となり、リアタイヤは170幅が装着される。
さらに前後サスペンションも変更され、フロントフォークは倒立式テレスコピックから正立式となり、ストローク長は前120mm/後120mmから前125mm/後140mmとなった。
これらによって車高は全体的に上がり、シート高は785mmから820mmと高くなっている。ちなみに車重は2kg少ない220kgだ。また、ハンドルバーとステップの変更によって乗車姿勢はややアップライトとなっている。
外装パーツではメーターが簡略化され、液晶モニターを備えたスピードメーターのみとなり、シートはブラウン地のタックロールシートが装着される。タンクはアルミからスチール(鉄)へと変更され、容量は1L少ない17Lとなった。細かいところではヘッドライトのバルブがH7からH4に変更され、発電容量は600Wから720Wへと向上している。グリップヒーターは標準装備だ。
そしてRナインティ スクランブラーの外観を特徴づけているのが車体左側に配置されるアップタイプの2本出しマフラーだ。Rナインティ スクランブラーの特徴の大きなひとつであるアップマフラーは凝った意匠のサイレンサーが装着されおり、このモデルの魅力となっている。
空油冷水平対向DOHC2気筒エンジンは、110psの最高出力、6速ミッションのギア比ともに変更はなく、パワートレインはRナインティと同じだ。
19インチフロントホイールの装着とキャスターを寝かせた効果によって安定性を向上させ、アップライトな乗車姿勢が安楽な運転操作をもたらす。ストロークが伸びた前後サスペンションは段差を乗り越える際の安定性を高めた空冷ボクサー。それがRナインティ スクランブラーというバイクだ。
なお、車両価格は16万円安い、176万5,000円となっている。
Rナインティ スクランブラーの試乗インプレッション
走りもカスタムもカジュアルに
楽しめる空冷ボクサー
Rナインティが持つライディングフィールは、BMWが100年近くに渡って熟成させてきたボクサーエンジンの妙味をストレートに楽しめるものであり、その魅力はスクランブラーとなっても変わらない。大排気量ツインならではの太いトルクを感じさせながらも、ほどよく抑制されたBMWらしい上質なパワーフィールで、水冷ボクサーとは異なる味わいを感じられる。左右のシリンダーが叩き出す鼓動感、2本出しアップマフラーから吐き出される排気音はどちらも小気味よく、しっかりと調教されている。少なくともバイク乗りであればうるさいと感じる音量・音質ではなく、それでいて強大なエネルギーが生み出されている実感を全身で味わえるものだ。
車体にまたがると、前後サスペンションともに初期の沈み込みは大きくなく、長いサスストロークのネガな部分は感じられない。シート形状は薄いため両足を地面に着くと太もも内側に当たるシートの角がやや気になる。
乗車姿勢はアップライトではあるものの、オフロードバイクのそれではなく、やや前傾気味だ。ステップ位置はRナインティよりもわずかにバック&ダウンされているが、やはりオフロードバイクほどステップとシート間は長くない。スクランブラーという名称からオフロード寄りの性格を想像しがちだが、乗車姿勢はロード寄りだ。
ハンドリングには19インチフロントホイールがもたらす鷹揚さがあり、リーンウィズはもちろん、インでもアウトでも違和感なく曲がれる。それは市街地の交差点からちょっとスピードが乗るカーブでも同様で、ボクサーエンジンならではの安定感をさらに高めている印象だ。それでいながら軽快さを感じられるのはリアタイヤが170幅とやや細くなっている効果だろう。
走行中のサスペンションの動きはやや硬めの印象で、路面の凹凸やグリップ感、いわゆるロードインフォメーションを乗り手にしっかりと伝えてくるセッティングだ。かといって乗り心地が悪いというわけではなく、ギャップでのショックはしっかりと吸収して路面を的確に追従するし、動きもしなやかだ。
今回の試乗は市街地と首都高速のみで、未舗装路は走っていない。しかし乗車姿勢やサスペンションのセッティングから想像するに、このモデルは積極的にダートを楽しむためのバイクではないように思う。もちろんダート走行は可能だが、Rナインティ スクランブラーはあくまでもオンロードバイクであるという意味だ。
また、ある人に言われて気づいたのだが、BMWにはGSというデュアルパーパスモデルがあるし、パリダカールラリーで優勝したオフロードマシンを作ってきた歴史と実績はあるものの、いわゆるスクランブラーモデルがこれまでのBMWラインナップに並んだことはない。つまりヘリテイジという意味において、元祖とするモデルが存在しない。これはトライアンフやドゥカティと異なる点だ。
しかしRナインティ スクランブラーの評価基準はそこにはない。Rナインティのコンセプトの主軸は「カスタムを楽しむための高い自由度」だ。このスクランブラーはBMW自らが示した方向性のひとつであり、Rナインティが持つ可能性を示すひとつの羅針盤である。走行性能においてはR1200RやRナインティと同じベクトル、つまりロードスターとしてのスポーツ性を走行性能の第一義にするのではなく、正立フロントフォークや大径アルミキャストホイールによって乗りやすさと親しみやすさを第一義とするキャラクターへと変貌させられるという手本だ。
事実、Rナインティ スクランブラーは街乗りがめっぽうにおもしろい。ABSの安心感と安全性はもちろんのこと、必要十分な効力を発揮するブレーキを積極的に使えばクイックにコーナリングできるし、このバイク本来のゆったりとした大らかなハンドリングは気持ちにゆとりをもたらすから、せせこましい都市部でのライディングでもストレスがない。空冷ボクサーのトルクはそれこそ十二分にあり、街乗りやツーリングでも不足を感じる場面はない。あるとすれば高速道路で思いっきりスロットルを開け続ける場面だが、スクリーンもカウルも持たないバイクとしてはパワー不足を感じる前にライダーが風圧に負ける。
積極的にダートに踏み込むバイクではないと書いたが、19インチである利点を生かしてブロックタイヤを装着すれば、オフロード経験者ならダート走行も楽しめるはずだ。オプションのクロススポークホイールに換装するのもいいし、キャリア類を増設してキャンプツーリングに適したタフでヘビーデューティーな仕様にするのもいい。
普段着のまま気軽に乗れるのもこのバイクの美点だ。ちょっとコンビニに買い物へ行くといったときでも、素足にデッキシューズを履いて出かけるようにスッと走り出せる。これほど気負わずに乗れるボクサーは近年のBMWに見当たらない。時を遡って探してみれば、パッケージこそ違えど1982年に発売されたR80STがもっとも似たキャラクターのボクサーだろう。このモデルはR80G/Sが持つオフロードにおけるスポーツ性を削ぎ落としてストリートマシンに仕立てた結果として、スクランブラー的キャラクターを得た。Rナインティ スクランブラーはそのベクトルとは正反対から、つまりオンロードにおけるスポーツ性を削いだストリートバイクの解答としてスクランブラーというパッケージが選ばれたのだろう。
フロント19インチホイールの乗りやすさと扱いやすさで、空冷ボクサーをカジュアルに味わえる。それでいて自在なカスタムを楽しめるし、自分だけの一台を作れるバイク。Rナインティ スクランブラーはそんなBMWだ。
Rナインティ スクランブラーの詳細写真
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