#10 最終戦 『MFJグランプリ』 ウラ話(その1)
- 掲載日/2013年01月22日【S1000RR 全日本選手権参戦記】
- 取材協力/G-TRIBE 文・写真/淺倉 恵介
MFJ 全日本ロードレース選手権の最終戦、MFJ グランプリの舞台は、日本のレースの聖地、鈴鹿サーキットです。レース結果については既にフォトトピックスでお伝えしていますが、本コラムではそのインサイドリポートをお届けします。悪天候により荒れに荒れたレースの裏側は、一体どうなっていたのでしょうか…?
久しぶりとなる鈴鹿サーキットで
自己ベストタイム更新を達成!
前回の掲載から、随分と間が空いてしまいましたが…
「ダレのせいなのだね?」
ハイ、担当の私の責任でございます。この連載を楽しみにしてくださっているバージン BMW 読者の皆様、戸田さん、大変申し訳ございませんでした。
「今後、注意するように」
肝に命じます。さて、鈴鹿サーキットで開催された MFJ グランプリのお話しです。このレースは、戸田さんが参戦している 『MFJ 全日本ロードレース選手権』 の最終戦。単純にシーズンを締めくくるレースというだけでなく、それまでに開催されたレースでポイントを取得したライダーしかエントリーが許されないという特別なレースなのです。もちろん、戸田さんは今までのレースで、しっかりと成績を残していますから、エントリーすることに差し支えはありません。有終の美を飾るべく鈴鹿に乗り込んだというワケです。
「公式練習が木、金と2日間あって助かったよ。最終戦は事前テストがなかったから、久々の鈴鹿でアセったもん」
今年は、8耐 でも鈴鹿を走っていますよね? それこそ飽きるほどに。
「そう単純なハナシでもないんだよね。耐久レースとスプリントレースでは、心構えが全然違うの。同じ鈴鹿のコースを、同じ S1000RR で走ると言ってもね、セッティングも違うし、目標タイムも違う。そうなると、もう別のレース。データの流用もできないし、乗り方も変わるんだ。気持ち的には、前年の MFJ グランプリから1年ぶりの鈴鹿という感じだった」
確かにラップタイムは全然違いますよね。
「8耐の時はタイムも出てないしさあ。だって15秒台だよ? まあ、レース中に、そのラップタイムを刻むことが自分の仕事だと考えていたし、それは達成できているから良いんだけどね。それにしてもタイムが悪すぎた!」
戸田さんの鈴鹿サーキットのラップタイムは、2011年シーズンの時点で2分12秒台に突入していました。ところが2012年の8耐では、そこまでのタイムは記録できていません。耐久レースは1人で走るわけではありませんから、チームを組むライダーとセッティングの共有が必要です。そのため、必ずしもベストセッティングで走れるわけではありません。8耐でタイムが出なかったのは、そこに大きな理由があるのです。
「でもさあ、2012年は S1000RR も新型になったでしょ? 戦闘力は確実に上がっているし、もっとタイム出したかったよ。『オレ、遅くなってね?』 って、不安になったもん」
その悔しさと不安は、予選で晴らしましたよね。キッチリ11秒台を叩き出したじゃないですか! しかも、2分11秒105ですから、10秒台は目前でしたよ。
「練習走行で12秒台半ばのタイムが、ワリと簡単に出せたんだよね。アッサリ前年のベストラップを更新しちゃったの。だから『こりゃあイケるぞ』と。けれど、オートポリス で好感触だった新型のタイヤが、ちょっとフィーリングが合わない感じがしてね、それで 岡山国際 の予選とかで使った、以前からあるタイヤも試してみた。そうしたら、古いタイヤの方がフィーリングは合うんだけど、タイムが出ないんだ」
難しいもんですね。『新型のタイヤはフィーリングは合わないけれどタイムは良い。旧型のタイヤはフィーリングは良いけれどタイムは出ない』 と…。どうして、そんなことに?
「タイヤの特性の違いだね。旧タイヤはグリップ感が高くて、安心して攻め込んで行けるんだ。安心感が強い感じかな? けれど、限界を超えるとタイヤがスパッと滑ってしまう。新型のタイヤは、滑り出し自体は早い段階から始まるんだけど、一気に滑ってブレイクしてしまうことがない。タイヤが滑るってことはトラクションが抜けてしまうことだから、バイクは前に進まない。推進エネルギーが横に逃げてる状態なワケ。けれど新型のタイヤは、滑りながらも前に進んでいけるんだ。スロットルが開いている時間が長くなって、タイムも上がるってことだね」
面白いですねえ。我々、一般レベルのライダーには関係のない世界のハナシですけど。
「そんなことないよ。よく 『自分はバイクのことがわからない』 って言う人がいるでしょ? そんな人でも 『今日は楽しく走れるな』 とか 『今日はなんか気持ち悪いな』 とか感じるじゃない? それって、ちゃんとバイクと自分の状態を感じ取っている、ってことなんだ。それを言語化できないとか、評価基準を持ってないっていうだけでね。セッティングの相談を受けるときも、そういう感覚的な部分を聞くようにしているよ。何を感じているのかを解析するのは、プロである自分の役割だからね」
思うように走れない人は、戸田さんに相談しろと。
「Gトライブ では、随時ライディングやサスペンションセッティングの相談を受け付けております」
戸田さんのお店Gトライブの CM でした。
「宜しくお願いいたします」
じゃあ、話を予選に戻します。MFJ グランプリは1日に2レースが行われる2ヒート制ですが、通常のノックアウト式予選1回で、2レース共にグリッドが決定します。予選の Q1 でレース1のグリッドが、Q3 までの総合結果がレース2のグリッドとなる、変則的な予選方法がとられています。
「予選がいつもより戦略的になるんだよね。Q1 でサクッと12秒台が出たのね、このタイムなら Q2 進出はカタい。いつもなら、タイヤを温存するためにも Q2 までピットで待機するところだけど、Q1 の順位がレース1のグリッドだから 『もう少し頑張らにゃ』 と、再びコースインしました」
ここで、すでに11秒台を記録しましたよね。
「実は、ここで新型タイヤの特性を掴んだんだよね。滑り出しても、更にスロットルを開けていけることに気付いたの。だから Q2 ではタイヤの使い方が解ってたから、すぐにベストラップが出せたんだ。ピットに戻ったら11秒105だって聞いてサ。せっかくだから10秒台に入れてやろうと思って、もう一度コースインしたの。そしたら、思ったよりタイヤが冷えちゃっててさ、残念ながらタイム更新はならなかった。イケる感触はあったから、惜しいことしたなあ」
まあ、良いではないですか。前年までのベストラップを2秒近く短縮してるんですから。と、好調に予選を終えた戸田さんでした。次回は決勝レースの模様をお伝えします。
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