BMW Motorrad 初のスーパー・スポーツ・マシンS1000RR登場!!
- 掲載日/2010年01月08日【特集記事&最新情報】
BMW Motorrad Motorsport チームは、2009年3月より市販車ベースのマシンで争われるロードレース「スーパーバイク世界選手権」(SBK)に初参戦した。その市販前提に開発された、まったく新らしいスーパー・スポーツ・マシン S 1000 RR が、2010年1月9日より日本でも予約注文を開始、同年4月以降日本の道路を走り始める。それに先駆け、一足早く海外プレス発表会でブランニューモデルの実力を確かめてきた2輪ジャーナリスト、元GPライダーでもある八代俊二氏の試乗レポートを引用しながら、その実力をじっくりと紐解いていこう。
Brand New Model / S1000RR
量産市販車を大前提として開発された
BMW Motorradのスーパー・スポーツ・マシン
『スーパーバイク世界選手権』(SBK)は、排気量の上限を 1000cc までとし、市販車をベースにチューンナップしたマシンで戦うロードレースだ。BMW がこれまでにない並列4気筒を開発し、SBKに参戦すると発表されたとき、驚きと同時に「やはりそう来たか」とニンマリした人も少なくなかっただろう。BMW の歴史はレースの歴史でもあり、BMW が造るマシンは、必ずユーザーありきの設計がなされている。
BMW Motorrad の象徴とも言えるボクサー・ツイン・エンジンが、HP2シリーズによって極限までそのスポーツ性能を高められてきた一方で、並列4気筒エンジンのスーパー・スポーツ・マシンの開発も本気で行ってきた。その完成形が S 1000 RR だ。
「…目を凝らしてマシンを眺めれば、STDと異なる部分が数多く見受けられる。というより、STDと同じ部品を捜すのが難しいくらいなのだ。
とはいえ、SBK の最終戦終了後に試乗したルーベン・ザウスのワークスマシンと STD のS 1000 RRには、スリムで低重心な車体は倒し込みが軽く、高回転域で力こぶのように盛り上がるパワフルなエンジン特性など、基本的なキャラクターは同じであることが確認できた。そういう意味では STD の延長線上に SBK マシンが存在していることは間違いないと言えるだろう。…」
と語るのは、ポルトガルのポルティマオ・サーキットで行われたプレスローンチに参加した八代俊二氏。全日本ロードレース選手権、世界選手権 GP500 への参戦経験を持つ日本屈指の2輪ライダーであり、現在はその経験を活かし、2輪雑誌でのニューモデル・インプレッションや、レース番組の解説などで広く活躍するジャーナリストだ。職業柄、このブランニュー・モデルの市販化へ到る経緯を傍で見てきた数少ない日本人でもある。
「…これまで私はモーターサイクルショーや SBK が開催されるサーキットの BMW ブースで幾度となく S 1000 RR のプロトタイプに接する機会があったが、その度に「大丈夫なのかBMW?」と思っていた。…(中略)…プロトタイプでは「これが BMW か?」と目を疑うほど粗っぽい溶接で、表面がザラついていたフレームは、鋳造製であることに変わりはないものの、しっかりと下地処理され、光沢のある塗装が施されているし、7月にミザノサーキットで見たときには、メタリックグレーに塗られ野暮ったいイメージしか残らなかったスイングアームは、量産タイプでは鋳造とプレス材を巧みに組み合わせ、溶接面が美しいアルミ製であることを強調する機能部品として生まれ変わっていた。
これらの部品以外にも、カウリングの合わせ面のクリアランスがきっちり詰められていたり、ヒールガードが手の込んだ形状に変更されているなど、マシン全体がBMW製品に求められるクオリティを確保するために入念な作り込みが続けられたことを窺わせる、美しい仕上がりになっていたのだ。…」
車格においても、BMW はライダーを中心とした設計思想に基づき、小柄なライダーでも大柄なライダーでも、常に無理なく中心にいられるよう、人間工学に基づいた設計がなされている。特にタンク周辺の造り込みは 600cc マシン並みのスリムさを実現しており、これには八代俊二氏も好印象の様子。
「…実際に跨ってみると想像以上にコンパクトで、取り回しが軽いことに驚かされる。820mm に抑えられたシート高とタイトに絞り込まれたフレームの効果で、想像以上に足つき性が良好で、アンダーマフラーの採用などマスの集中化が図られた結果、マシンの取り回しは期待以上に軽いのである。…」と語る。
PINUP
Brand New Model / S1000RR
レースの先にいるユーザーを見据えた
BMWのモノづくりと普遍のポリシー
すべてが新しい S 1000 RR にとっては、どれひとつを取って見てもありきたりの部分は無いが、もっとも特徴的と言えるのが、スーパー・スポーツ・マシンの中で唯一、Race ABS および DTC (ダイナミック・トラクション・コントロール)を装備している点だろう(日本仕様ではPremium Line に標準装備)。
DTC は走行コンディションに適したエンジン特性曲線を選ぶことが出来るドライブモードのことで、濡れた路面には [RAIN] モード、一般的なオンロード走行には [SPORT] モード、スーパー・スポーツ・タイヤを装着したサーキット走行では [RACE] モード、さらにスリックタイヤを装着したサーキット走行での [SLICK] モードが、ボタン操作ひとつで選択することが出来る(日本仕様では [SLICK] を除く3つのモード)。そしてレース ABS は、その DTC と連動してレーストラックにおける走行に応じて、その動作に緩急がつけられるもの。
このレース ABS ならびにDTCにより、S 1000 RR はスーパー・スポーツ・マシンの走行特性、走行安全性、革新性を高めていると言える。またプレミアムラインにはシフトアシストも標準装備され、トラクションが途切れることなくシフトアップが可能となり、加速時に最大限のパフォーマンスを発揮するだけでなく、あらゆるコンディションでライダーをサポートするアクティブ・セイフティの役割も担っている。その恩恵は雨上がりのポルティマオ・サーキットで試乗をした八代氏も感じたところ。
「…エンジン出力が 22%抑えられ、トラクションコントロールと ABS、シフトアシストが極めて自然に作動する S 1000 RR は、フルウエットの路面でもマシンの挙動が乱れるようなことは一度もなかった。唯一、気になった点はアクセルが非常に重いということ。安全対策で強力なリターンスプリングを採用しているので、アクセルの開け始めが特に重く感じられたのだ。
走行ラインが8割ほど乾いたところでスポーツモードを試してみる。最高出力が 100%発揮されるスポーツモードだと、明らかにエンジンのレスポンスが鋭くなる。しかしながら、7,000回転以下ではアクセル開度に対してエンジンが非常に穏やかに反応するので、コーナー立ち上がりでもわりと大胆にアクセルを開けられる。
ビッグバイクの強力な中速トルクに手を焼いているライダーには、自信と勇気を与えてくれるモード… と言っても構わないだろう。またレインモードで気になったアクセルの重さは、一気にアクセルを開けられるスポーツモードからは、ほとんど気にならなくなった。
ライン上がほとんど乾いたところでいよいよレースモードに切り替える。
スポーツモードに中速域の力強さが上乗せされたようなレースモードだと、ヘアピンのようなタイトコーナーからの立ち上がりでは弾かれたようにマシンが加速する。トラクションコントロールが利いているので、一気にリアが横を向くようなことはないが、小刻みなスライド(とグリップ)を繰り返すリアタイヤは路面に黒々としたブラックマークを残しながらマシンとライダーを前方に押し出してくれる。この辺りになるとライダーは積極的な体重移動が求められるので、それなりのスキルが必要になってくるだろう。
最後に、トラクションコントロールや ABS の関与が小さくなるスリックモードで走ってみた。全域でレスポンスが鋭くなったエンジンは、もはや量産車とは呼べないくらいのシャープさでアクセルに反応し、高回転域では咆えるような排気音を響かせる。スリックモードの鋭いレスポンスと刺激的な排気音に触れると体内でアドレナリンが湧き出すのが分かるほどだ。その気になればリアタイヤを故意に滑らせることも、そこそこな高さまでフロントタイヤを上げたまま走ることも可能だ(スリックモード以外はウイリーコントロールが強く効く)が、それにはそれ相応の体力とハイレベルなライディングテクニックが必要なことも明らかだ。しかもその状態でも ABS とトラクションコントロールが最悪の事態を回避してくれるというのだから、これ以上心強いことはない。…」
最高出力 156PS/10,000rpm、最大トルク110Nm/10,000rpm を発生する新開発エンジンをコントロールするのは並大抵のことではない、しかし常に時代の先を行く BMW というメーカーにとっては、それこそが克服すべき課題だと言わんばかりに、( SBK という舞台で)膨大なコストと労力を費やし、それらに挑戦してきた。なぜなら、ライダーは一般ユーザーであるべきだからだ。
「…安全を優先し、データ収集に徹した BMW は、シリーズ序盤は慎重なセッティングに終始した。そして、順調にデータ収集が進み、コンベンショナルなマシンでの戦い方が分かってきたシリーズ終盤、ようやくライバル達と同等の詰めたセッティングを試みるようになる。
結果、一ヶ月のサマーブレークを経た後の S 1000 RR は急激にスピードを増し、2人のライダーが揃って予選上位に顔を出すようになっていった。不運なことに終盤でザウスが負傷するなど、好調の波に乗ることは出来なかったが、S 1000 RR が着実に速さを増していった事実はレース関係者全員が認めるところである。
パワーを絞り出すのに有利な大径バルブを採用するため極端なビッグボアにしたエンジンは、同時に極端なショートストロークでもあるのでエンジン回転を上げることが可能であるにもかかわらず、メディアテストで試乗したザウスのマシンは、予想に反してその他大勢のマシンと同程度のレブリミットでしかなかった。しかしこれはザウスが最高馬力より乗りやすさを求めた結果だという。…」
S 1000 RR は、BMW がスーパー・スポーツ・マシンを造るとこうなる、というひとつの明確な答えだ。もちろんレースである以上、表彰台の一番高いところに立つことが最大の目的ではあるが、その先もちゃんと見据えたメーカーとしてのポリシーを、このモデルから感じられずにはいられない。