#04 菅生大会ウラ話(その1)
- 掲載日/2012年09月14日【S1000RR 全日本選手権参戦記】
- 取材協力/G-TRIBE 文・写真/淺倉 恵介
戸田さんが参戦中の MFJ 全日本ロードレース選手権も折り返し点に到達。後半戦のスタートとなる第6戦スポーツランド菅生大会が開催されました。14位完走という結果は既にお伝えしていますが、今回はリザルトを見ただけでは解らない、レースの内側に迫ります。
気合いを入れて臨んだ第6戦菅生大会
けれどもコトは簡単には進みません
バージンBMWでは既に トピックス でお伝えしていますが、2012年8月26日に MFJ 全日本ロードレース選手権の第6戦が開催されました。戸田さんは14位で完走、7ポイントを獲得したわけですが、今回はどういうレースであったかを当事者である戸田さん本人に語ってもらいます。めったに聞くことの出来ない、迫真のインサイドリポート!! ……に、なりますでしょうか? ともかく、現役レーサーのホンネの言葉ですから、珍しいことは間違いありません。
さて、スポーツランド菅生 Rd. はお疲れさまでした。今回は、レーシングライダー戸田 隆自身に、菅生 Rd. がどういうレースであったかを語っていただきます。
「ん~? 菅生ね。ウチのチーム員が優勝したから良かったんじゃないでしょうか? 以上。」
ちょっとちょっと! それは違うレースですよ? まあ、間違ってはいませんが。
戸田さんはGトライブという、サスペンションとシャシーの専門ショップを営んでいるワケですが、そちらではレーシングチームとツーリングクラブも運営しています。全日本の菅生 Rd. では 『アイアンモンスターR エキジビジョン』 というアマチュア向けのレースが併催されて、そちらのレースをGトライブの所属選手が見事優勝されたのです。それはさておき、ここで聞きたいのは戸田さんのレースなんですが……。
「仕方ない、語るか。」
お願いします。
「実は、菅生 Rd. は密かに期するところがあったんだよね。6月に事前テストがあって、自分も参加したんだけど、この時は異常に気温が低くてね。路面温度も6月とは思えないほど低かったから、走ってはみたもののレースに活かせるデータが取れなかったんだ。」
MFJ 全日本ロードレース選手権は、レースウィーク以前にテスト走行の機会が設けられています。主催するのはタイヤメーカーであったり、バイクメーカーであったりして、関係のあるライダーは走行するのが普通です。戸田さんはブリヂストンのタイヤを使用していますが、事前テストでレースに使用するタイヤを決めたり、練習したりするのです。菅生 Rd. は8月の末開催なので、通常なら7月か8月にテストが行われるのですが、7月末にはビッグイベント鈴鹿8耐があるものですから、変則的に6月にテストが行われました。ただでさえ、6月と8月では気候が異なる上に、異常気象が重なったため6月のテストは実りのあるものではなかった、ということのようです。
「だからね、これじゃイカンと自発的にテストをしたの。菅生まで行って、テストと練習をしましたよ。よりによってお盆の時期だったから、道路の混雑もキツかったなあ……。」
おお! 殊勝ですね。
「レースに対しては真面目なの! まあ、苦労して菅生まで行ったおかげでタイヤも決まったし、タイムも去年のベストタイムがワリと簡単に出せた。これはイケる……と言うか、イクぞ! と思っていたんだけど、レースウィークに入って作戦を間違えたね。」
間違えた?
「間違えたねえ……欲張り過ぎた。同時にいくつもの新しいことを試してしまったもので、セッティングをまとめきれなかった。燃調もチョコチョコといじっていたし……実は新しいリンクを試していたんだよね。」
リンクとはリアサスペンションの重要部品。S1000RR はリンク式のサスペンションを採用しています。これはショックユニットとスイングアームを、リンクを介して繋げている構造。リンク式には様々なメリットがあるのですが、ここでテーマになるのがプログレッシブ特性です。
例えばですが、乗り心地を考えるとサスペンションは良く動いて欲しい、しかしコーナーで荷重がかかっている時にはしっかりと踏ん張って欲しい。この相反する要素を両立するには、サスペンションの動きに変化が必要です。「progressive = 漸進的」ですから、特性が変化すると理解してもらえばいいでしょう。
リンク式サスペンションは、このプログレッシブ特性を任意に設定し易い構造を持っています。そこで登場するのが戸田さんの言う「リンク」です。ショックユニットとスイングアームの間にリンクを介すると、そこにテコの仕組みが生まれます。リンクの設計次第で「支点・力点・作用点」の位置関係を変えることができるので、ショックユニットへの荷重のかかり方を調整できるのです(ここではリンクという言葉を使いますが、リンクは本来サスペンションの構造を示す言葉で、ここでのリンクの部品名は “ベルクランク” と呼ぶことが多いようです)。リンクはサスペンションの特性を決める重要部品。ではなぜ、リンクを変更する必要があったのでしょう?
「ノーマルのリンクは、プログレッシブ特性の立ち上がり方が急なんだ。簡単に言うと、“ドカン” と荷重をかけるとサスペンションが動かなくなってしまう。ショックユニットが本来持っているストロークを使い切りたいのに、ダンパーが強く効いてサスペンションが止まってしまうんだね。誤解して欲しくないのは、ノーマルのリンクの設計が間違っているわけじゃないってこと。一般道で2人乗りまで考えたら当然の特性。けれど、全日本レベルのレースで使おうとすると事情が変わってくる。レースでなくても、1人乗りオンリーでスポーツラン中心なら、リンクの変更は効果が大きいですよ。Gトライブでは、そのためにリアショック&リンクをキット化しています。」
Gトライブの オリジナルリンク+ハイパープロショックユニットのキットは、2011年モデルまで対応。2012年モデル用キットは現在開発中だそうです。
「宣伝ありがとう(笑)。S1000RR の先代モデルと2012年モデルのリアサスペンションは、ショックユニットの長さが違ったり、いろいろと変更になった部分があるから、今までのリンクが使えないの。だから2012年型用のリンクを開発中なんだけど、とある筋からスペシャルなリンクを借りることができてね、ソイツを装着してみたんだ。」
とある筋! なんだか怪しい話になってきました!
「いや、酒井大作選手なんだけどね。」
ネタばらしが早過ぎます! 酒井選手と言えば、今年の鈴鹿8耐で S1000RR で8位に入るという大活躍を見せました。そのマシンに装着されていたリンクを借りた……と。
「そうそう、快く貸してくれた酒井選手には本当に感謝です。彼はナイスガイです、素晴らしい。で、そのリンクは酒井選手の要望に合わせて ウッドストック さんが作ったものなんだけど、初期の動きとか本当に良くてね。狙っているところは一緒だなって感じたよ。ただ、ショックユニットをそのリンクに合わせきれなかったんだよね。サスペンションを止めたがるノーマルのリンクに合わせたショックユニットを作っていたものだから、良く動かそうと働く酒井選手のリンクに組み合わせるとサスが動き過ぎちゃってね。リアのトラクションが逃げちゃう感じになってしまった。煮詰める時間があればきっと良い結果が出せたと思うんだけど、何分時間が足りなかった。でも良いデータがとれました。なんにせよ、酒井選手ありがとうございました。」
酒井大作選手は “漢” であったというお話しでした。しかし、時間が無かったとはいえ “車体の魔術師”、“セッティングのマエストロ” と数々の異名を持つ戸田さんらしからぬミスではありませんか? 新しいパーツを試すのに、時間が必要なのは自明のハナシでは?
「そうなんだけど、新しいパーツが手に入ったから試さずにはいられなかった……(笑)。」
子供じゃないんだから。
「いや、ある程度予想はしていたよ。けどね、自分が S1000RR でレースをしているのは、S1000RR のユーザーのためにデータ集めをしているという意味合いがあるの。S1000RR の可能性を探って、それをユーザーの皆さんにフィードバックしていきたい。もっと、S1000RR というバイクを楽しんでもらえるようにね。だからパーツにせよ、セッティングにせよ、試せる機会があったら貪欲にトライして行こうと考えてるんだ。」
なるほど! 世のため人のためというヤツですね。で、ホンネのところは?
「新しいパーツが手に入ったので、試してみたかった…… って、そうじゃないよ!」
と、オチがついたところで次回に続きます。
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