F800GS(2009-)
- 掲載日/2009年01月06日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad Japan 取材・写真・文/VIRGIN BMW編集部
パラレルツインエンジンを搭載した
生粋のビッグオフロードバイク
ヨーロッパでは2008年春に同時リリースとなった、パラレルツインエンジン搭載のF650GS(エフロク・ツイン)とF800GS。日本ではエフロク・ツインが2008年4月、F800GSが2009年1月10日からの発売開始と、それぞれリリースのタイミングをずらしての登場となった。開発は同時期に行われ、エンジン、フレームなど基本構成は同様ながら、この2台には異なる性格が与えられている。
エフロク・ツインはGSシリーズの末弟として、ビギナーからベテランまで幅広く抱擁する懐の深いオールラウンダーという位置づけ。オンロードでの長距離移動もそつなくこなし、その気になればオフロードもそれなりの領域まで行けますよ、というデュアルパーパスマシンの特性を与えられた存在だ。対してF800GSは、最新パラレルツインエンジンのポテンシャルを目いっぱいオフロード指向へ振り、足回りなどの構成もエフロク・ツインとは明らかに異なる。R1200GSに比べれば軽量でボリュームも控えめなボディではあるが、798ccの排気量やシート高850mm(日本標準仕様)というスペックは、立派な大型車といえる。
F800S/STからはじまる、BMW新開発のパラレルツインエンジンを搭載した次世代Fシリーズ。そのなかでF800GSは、クロスカントリー向けのビッグオフロードバイクという明確な位置づけで現れた。本格的なオフロード走行を前提としたエンデューロマシンであり、BMWモトラッドのラインナップのなかで、よりベクトルのはっきりしたキャラクターとなっている。
F800GSの特徴
エンデューロ指向のエンジン設定と
原野を駆け回る強靭な足
基本的な車体構成はエフロク・ツインと同様。F800GSのキャラクターを明確に特徴付けているのは、主にサスペンションやタイヤなどの足回りと、エンジンのチューニングにある。
排気量や電子制御インジェクションなどはエフロク・ツインと同一ながら、よりエンデューロ的なパフォーマンスを発揮すべくカムシャフトを別物とし、それに合わせたマッピングが設定されている。最高出力はエフロク・ツインの71psに対して85psと、ひとまわりパワフルになっており、これはF800S/STと同じ数値だ。しかし発生回転数は500rpm低い領域の設定。トルクはエフロク・ツインの75Nmに対して83Nmで、これもS/STの86Nmに近い。そして発生回転数もまた50rpm低いもの。つまり中速域で高出力を発揮する設定となっているのだ。
オフロードでのパフォーマンスに適したチューニングは、エフロク・ツインの良い意味でのソフトなレスポンスとは逆に、スロットル操作に対して鋭く反応し、ここぞというときの瞬発力や突発的な加速力を右手でコントロールしながら、十分なパワーを発揮するためのものだといえる。
よりエンデューロ指向となったエンジンを支える車体は、チューブラーフレーム、チェーン駆動方式、アルミキャストダブルスイングアームまではエフロク・ツインと同様。フロントサスペンションにはスプリングトラベルが50mm長い倒立式テレスコピックフォークを装備し、タイヤは21インチのスポークホイール、ブレーキはエフロク・ツインの直径300mmシングルディスクに対してダブルディスクが組み合わされる。リアサスペンションも45mm長いストロークを持たされ、17インチのスポークホイールを履く。これらの装備を見てもわかるとおり、よりエンデューロ指向の高い車体構成がF800GSの特徴となっている。
F800GSの試乗インプレッション
21インチホイールがもたらす
絶対的な安定感と走破性が魅力
真新しいF800GSを借り受け、オプションのアクラポビッチから弾き出されるR1200GSとソックリな排気音を楽しみながら、夜の首都高を郊外の自宅に向けて走り始めたのだが、しばらくすると事故渋滞に巻き込まれてしまった。オプションをフル装備した車輌ゆえ、標準よりもずっと高いシートや幅を取る巨大なアルミ製パニアケースに気疲れする状況だが、不思議なことに、いくら走ってもまったく疲れないことに驚かされた。「疲れない」は、BMWのインプレッション記事の常套句だが、このF800GSに関しては他のモデルとは次元が異なる。容赦なく繰り返されるストップ・アンド・ゴーをやり過ごすために、状況の一定しない路面を停止寸前のスピードで延々と走り続けていたにもかかわらず、足をつく必要性をまったく感じさせないR1200GS並のスタビリティと、狙ったラインにピタリと進路を微調整できるF650GS級の軽さ。そして、これまたR1200GSソックリの高速巡航性能が同居していたのだ。そして、自宅に到着する頃には、それが紛れもなくF650GS譲りの長大なホイールベースと、フロントの21インチホイールによるものだと確信した。
翌朝になり少々冷静になったところで、現行F650GSをテストしたときと同じコースを敢えて走ってみたのだが、通常走行ではF800GSのアドバンテージはさほど感じられなかった。誰でも深々とバンクできる高い安定性や、回頭性が高いハンドリングもF650GSとほぼ同等。エンジンに関しては、むしろ、ディチューンされたF650GSの方が加速感が気持ちよいと感じたほどだ。しかし、路面が荒れてきたり、ペースアップしたりすれば、足回りやブレーキ、そしてそれらによってもたらされる車体の挙動が、やはりF650GSとは別物であることを主張してきた。顕著な違いは、走行中に大きめのギャップを拾っても、全く不安感がないこと。21インチフロントホイールと45ミリ径インナーチューブの倒立フロントフォークが、一瞬のうちに全てをうまく吸収処理してくれるのだ。また、ブレーキはフロントがダブルディスク化されているが、制動力の立ち上がりはあくまでも穏やか。豊かにストロークしながら路面とコンタクトを取り続けるフロントサスとのマッチングも良好だ。F650GSをテストしたときに好ましいと感じた反動があるタイプのABSも健在。ハーフスリップ状態にも敏感に反応し、「コツン」と掌や足の裏をノックしてくるので、タイヤや路面の状況を把握しやすい。前後足回りを延長されたことにより、センタースタンドが軽くなったことも、旅するバイクとしては見逃せないポイントだ。
こうしたF800GSのアドバンテージは、林道に持ち込むとさらに明確なものとなった。テスト走行したのは、短いながらも曲がりくねった轍や湿った岩、倒木などが点在する林道。F650GSをテストしたときは轍にあわせて進むしかなかったセクションも、F800GSならいともたやすくそこから抜け出し、自由自在にコースを選ぶことができる。両足をついて乗り越えた記憶のある岩も、地面を舐めるように動く足回りに助けられ、いつのまにか通過していたといった具合だ。タイヤはF650GSと同じ銘柄だが、今回は左右パニアケースにトップケースも装着した状態。それでも、こうした場面でのアドバンテージは圧倒的と感じられたのだから、テレスコピックフロントフォークと21インチフロントホイールがもたらす走破性はやはり偉大だと感じずにはいられない。長大なホイールベースゆえ、狭い林道でのUターンはあまり得意ではないが、BMWは本気でこのモデルのオフロード性能に磨きをかけたに違いないと感じた。
こんな方にオススメ
帰ってきた“ゲレンデ・シュポルト”
実際にオフを走るならお勧めの1台
ビッグオフというカテゴリを創出したと言っても過言ではないBMWのGSシリーズだが、1993年デビューのR1100GS以降は、その軸足をオンロードにシフトしつつ進化を続けてきた。そして、今やラインナップの中核を成すほどの人気ぶりを見ると、それが時代の要請だったことは疑う余地が無い。しかし、その本質が“GS”というシリーズ名の語源である“ゲレンデ・シュポルト”から乖離していくように感じ、一抹の寂しさをもってGSの進化を眺めていたオフロードファンも多かったのではないだろうか。こうした流れの中、F800GSは久々に登場した“ゲレンデ・シュポルト”だ。長旅やタンデムに余裕をもって対応する積載性と巡航性、そしてテレスコピックフロントフォークと21インチフロントホイールがもたらすオフロード性能。これら全てを同時に満たすモデルは長らくBMWのラインナップで不在の状態が続いていたが、F800GSはこれらを兼ね備え、湿式クラッチとチェーンドライブを採用しているので、ボクサーエンジン搭載のGSよりもずっと気軽に扱えるというメリットも与えられた。ビッグオフで実際にオフロードを走るライダーには、超オススメの1台だ。
クローズアップ
オフロードマシンとして
忠実な車体構成
F800GSは21インチの大きなフロントタイヤと、太く長い倒立式テレスコピックフォークに象徴されるように、純粋なオフロードマシンだということがうかがえる。オフロード走行において、タイヤとサスペンションは非常に重要な役割を担っていることは言うまでもない。単なる大きなデュアルパーパスマシンとしてではなく、ビッグオフロードマシンとして認識したほうが素直だろう。
1935年に登場したR17で、量産市販車として世界で初めてテレスコピックフォークを採用したBMWは(パテントも取得していた)、その後もテレレバー、デュオレバーといった革新的なフロントサスペンション機構を開発し、相次いで市販車に投入してきた。その姿勢は他メーカーが決して真似することのできない前衛的なもので、テレレバーはすでにBMWのアイデンティティのひとつにもなっているほどだ。
しかしそれは、あくまでも一般ユーザーを対象とした万人のための機構であり、よりコンペティション向け、より本格的なスポーツ走行を要求されるマシンの開発となると、BMWは必ずテレスコピックサスペンションを採用している。HP2シリーズやG450X、これから活躍することが期待されているS1000RRなどがその例に等しい。
Fシリーズに関しては、S/STもそうであるように、R、Kシリーズを上位モデルとしてよりユーザーフレンドリーな乗り物という位置づけを担ってきたこともあり(G650Xシリーズも)、ボクサーマシンに比べて軽量、コンパクトな設計で開発され、複雑なサスペンション機構よりはコスト面でもユーザーに優しいテレスコピックを採用してきた。
初代からテレスコピックサスペンションを採用してきたFシリーズだが、F800GSに見るそれは、先にも述べたとおり明らかにエンデューロを走破するための強靭な足回りである。オンオフ双方の走破性を持つF-GSシリーズではあるが、エフロク・ツインとF800GSはそのキャラクターが明確に分けられている。F800GSは、長距離走行のなかでたとえ全体の9割以上がオンロードだとしても、残り1割にも満たないオフロードのために遠出するライダーにとって、とても価値のある乗り物だと言えるだろう。
F800GS プロフェッショナル・コメント
使い道がはっきりとした
ビッグオフロードバイク
登場したタイミングもあってF650GSと比較されることがありますが、実際は似て非なるもの、まったくの別物です。ポルトガルでのワールドローンチで2台を乗り比べましたが、F800GSは一言でいうと「ストイックなビッグオフロードバイク」です。
F650GSの場合は、軽快なハンドリングで車体の挙動がわかりやすく、ビギナーにも扱いやすいYAMAHAのセロー的なキャラクターと言えます。のんびりと林道を走るのに最適ですね。しかもオンロードでのスポーツ走行も許容してくれます。しかしF800GSでそのような使い方を期待すると、逆に乗り辛さを感じてしまうかもしれません。このバイクはライダーのアクションに応え、オフロード走行がどんどん楽しくなっていく、攻めることが面白く感じる乗り物です。極端ではありますが、チュニジアで開催された「GSトロフィ」の様子を写真や雑誌の記事で見てのとおり、あれがF800GS本来の姿だと思っていただいて間違いありません。モデル名だけで「どうせだったら上位モデルを…」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、そんな方にはエンデューロ指向の強いF800GSよりも、F650GSのほうをオススメしたいですね。
そういった意味で他モデルと比較すると、まず国産車にライバルは見当たりません。海外メーカーではKTM950SERあたりが対象になるかもしれませんが、実際のライバルはHP2エンデューロだと思います。ツーリングでの快適性というより、スプリンター的な性格の方が強いので、R1200GSが相手ということでもないでしょう。
ここまで言ってしまうと相当乗り辛そうに聞こえるかもしれませんが、2台のF-GSに乗って、オフロード以外の走行で苦に感じたり、14馬力の差を感じることはありませんでした。一緒にツーリングに出かけても何ら問題はないでしょう。ラクに長距離を移動できて、なおかつ林道でアグレッシブな走りも堪能できるバイクです。
個人的には、とくにオフロード走行前提でバイクをお探しの方にオススメしたいですね。たとえば250ccのトレールバイクなどでよく林道ツーリングに行かれる方が、ワンランク上を目指したい、といった場合に最適なバイクとなるでしょう。今となっては希少なカテゴリにあるビッグオフロードバイクとして、F800GSはライバル不在の唯一無二の存在。とても魅力的なバイクですよ。(Motorrad Yokohama 佐々木 誠さん)
F800GS の詳細写真
基本的にはエフロク・ツイン同様
オフ専用設計で味付けが異なる
オフ走行を重視した
フロントサスペンション
高い制動力を発揮する
フロントダブルディスク
新生F-GS共通となる
剛性の高いスイングアーム
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