R1200R(2011-) / R1200Rクラシック(2011-)
- 掲載日/2011年03月31日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad Japan 取材・写真・文/田中 善介 取材・文/中村 友彦
オーソドックスな乗り味と汎用性を前提に
後発の美点を活かした刷新を重ねる
BMW は昔からオーソドックスなネイキッドモデル=ロードスターを大切にしてきたメーカーで、他社のラインナップがフルカウル車ばかりになった時代にも、R100 や R80 といったネイキッドモデルの熟成を忘れなかった。とは言え、ここ十数年を振り返ると、ロードスターは BMW にとっての花形モデルではないようで、ボクサーツインの大幅刷新を行う際の主役は GS や RT。DOHC エンジンを得た最新の R1200R がそうであるように、1995年型 R1100R/2001年型 R1150R/2007年型 R1200R も、1~2年遅れで GS や RT と同様の新機軸を導入してきたのである。
この事実を知ると、あまりいい印象を持たない人がいるかもしれないけれど、先行する GS や RT、さらには RS や S の技術を取り入れながら進化してきた近年のロードスターが、生まれながらにして高い完成度を持っていたのは事実だし、そもそもこのシリーズには、各分野に特化した他のボクサーツインでは持ち得ない高い汎用性が備わっている。オーソドックスであると同時に、常に後発として刷新を重ねてきたロードスターシリーズは、ボクサーツイン各車の “いいとこ取り” をしたと言うべき資質を持っているのだ。
R1200R & R1200Rクラシックの特徴
ボクサーツインならではの味わいと
運動性能に磨きをかける
新生 R1200R に搭載される DOHC ボクサーツインは、2010年に大幅刷新を受けた R1200GS/RT から継承されたものである。ドイツ本国のカタログデータを見ると、R だけ最高出力発生回転数が 250rpm 低かったり、最大トルクが 1Nm 少なかったりするものの、6速ミッションのギア比も含めて基本構成は同じ。となると、すでに現行 GS/RT を経験していれば、ある程度は新生 R1200R の乗り味の予想がつくはずで、実際に僕自身は、低中回転域のトルクが厚く=粘りが強くなり、高回転域の感触がスムーズになって、排気音が野太くなっているのだろう、とタカをくくっていたのだが…。
その予想は見事に裏切られた。もちろん、前述した DOHC ボクサーツインの美点は美点として活きているのだけれど、新生 R1200R の場合は、低中回転域で感じる大排気量2気筒ならではの鼓動が濃厚なうえに、高回転域の伸びが格段にシャープ。そう感じる原因は、おそらくエンジンそのものではなく、GS/RT より車格が小さくて車重が軽く、マスの集中度が高いことなのだが、いい意味で黒子のような仕事をしていたボクサーツインが、ここまでの存在感を発揮してくれるとは(133ps ものパワーを絞り出した HP2 Sport ほどの強烈な主張ではない)、誰にとっても予想外の展開なんじゃないだろうか。
エンジン以外の特徴はと言うと、わかりやすい部分ではメーターやライトステー、マフラーの形状を一新することで、ロードスターらしい軽快感を獲得したことが挙げられる。とは言え、R1200S で培ったノウハウを転用して、テレレバー式フロントサスペンションの高剛性化を図ったことも注目すべき要素だろう。具体的にはインナーチューブ径の拡大(35→41mm)や、フォークボトム部の締結方法見直しなどが行われているのだが、これらの変更は、接地感の向上に大いに貢献している。そしてその接地感がもたらしてくれる安心感は、峠道やサーキットを飛ばさずとも、日常域で十二分に感じられるものなのだ。
日本で販売される新生 R1200R は、従来と同じく、コストを抑えたアクティブラインと、グリップヒーター/インテグラルABS/オンボードコンピューター/ASC/センタースタンドなどを装備するハイラインの2機種。ただしスポークホイール仕様のクラシックはハイラインのみが設定され、このモデルではローダウンサスペンションとエクストラローシートが標準装備となる。
R1200R & R1200Rクラシックの試乗インプレッション
GSやRTとは一線を画する
オンロードスポーツとしてのキレ味
新しい R1200R に乗ってまず驚いたのは、ハンドリングの “キレの良さ” だった。実を言うと、僕は従来のロードスターがあまり好きではなく “ボクサーツインを買うなら、やっぱり存在感抜群で目的意識がはっきりした GS か RT、あるいは S か ST だなあ(要は R 以外のどれか)” と思っていたのだが、このマシンにはオンロードスポーツ車好きを喜ばせる絶妙な “キレ” がある。その一方で、従来型が持っていた汎用性はまったく失われていないのだけれど、このキビキビ感と軽快感と剛性感は、明らかに従来型より上。既存のボクサーツインに当てはめるなら、R に S の美点を盛り込んだ感じだろうか。S がカタログから姿を消した今、こういったちょっとした方向転換は僕的には大歓迎だ。
興味深いのは現状の “キレの良さ” を得るにあたって、フロントサス以外に BMW が特に大きな改革を行っていないことである。ホイールベースは 5mm 短くなったものの(1,500→1,495mm)、27.1度のキャスター角や 119.1mm のトレールは従来型と同じだし、車重や重心だって変わっているようには見えない。ただし日本仕様の場合は、シート高がドイツ本国と同じ 800mm になったことも加味して考えるべきだろう。逆の視点で考えるなら、R1200R は以前からある程度のキレ味を持っていたのに、770mm のローシートが採用されていた従来の日本仕様では、本来の資質は味わいづらかった、と言えるのかもしれない。
新たに採用された DOHC ボクサーツインについては、前項で述べたように、全域で明確な主張が感じられる仕上がりで「エンジンっていうのは載せる車体によってこうもフィーリングが変わるのか」というのが、僕自身の率直な印象である。この鼓動感とシャープさがあれば、従来型で一部のライダーから言われていた、味気ないとか退屈なんていう意見はほとんど出てこないはずだ。なお 110ps という最高出力に対して、試乗前の僕は 「SOHC の R1200S ですら 122ps だったのだから、もうちょっとがんばってもよかったのでは?」 と思っていたものの、試乗中にパワー不足を感じたことは一度もなかった。
同時発売されたスポークホイール仕様の “クラシック” は、基本的には標準モデルと同じ乗り味…と言いたいところではあるけれど、足つき性を重視してローダウンサスとエクストラローシートを採用した結果、残念ながら標準モデルのようなキレの良さは味わえない。出来ることなら、標準モデルと同等の装備を持った仕様も併売して欲しいところである。
こんな方にオススメ
既存のBMWユーザーを含めた
あらゆるライダーに乗って欲しい
もともと持っていた高い汎用性に S 譲りの運動性と DOHC エンジンならではの主張が加わった新生 R1200R は、誰にでも薦められるモデルだ。とは言え、実は僕自身が最も乗って欲しいと考えているのは、現行 R1200GS/RT オーナーの皆さんだ。GS/RT ならではの特化した性能を否定するつもりはないけれど、日本の道路事情に適した車格で、ありとあらゆる状況を楽しみに変換してくれる新生 R1200R に乗れば “俺が求めていたのはこれだ!” と思う人が、意外にたくさんいるんじゃないだろうか。
R1200R & R1200Rクラシック の詳細写真
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