R1200GSアドベンチャー(2014-)
- 掲載日/2014年04月16日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad Japan 取材・写真・文/山下 剛
大陸を縦横無尽に走破する
アドベンチャーバイクの最高峰
このバイクのルーツは 1984年に登場した『R80GS Paris Dakar』で、35リットルの大容量燃料タンクとフレームマウントのフェアリング、可動式スクリーンを装備したツーリングモデルだ。
その後、1988年に第2世代となる『R100GS Paris Dakar』が登場。パリ・ダカールの名称が使われたのはここまでで、GSをベースに大容量タンクを装備したエンデューロモデル第3世代は、R1100シリーズを飛び越えて『R1150GS ADVENTURE』として2002年に登場した。
第4世代となる『R1200GS ADVENTURE』では、ベースモデルの軽量化によって車重がおよそ20kgも軽くなったことに加えて、刷新された空冷ボクサーの吹け上がりが速くなったことも手伝い、ボディは大柄ながら走り出せば軽快なフィーリングを味わえるバイクとなった。
そして BMW ボクサーが空冷から水冷へと進化した今、第5世代となる『R1200GS ADVENTURE』が登場。そのコンセプトは R100GS Paris Dakarからまったく変わらず、大型燃料タンクによる圧倒的な航続距離、大型フェアリングとスクリーンによる快適な巡航を味わえるGSだ。
R1200GSアドベンチャーの特徴
ベースモデルに対して航続距離と
巡航性能を高めたのがアドベンチャー
前述したように、アドベンチャーと冠されるモデルは、GS をベースモデルとして航続距離を伸ばして快適性を高めたバイクだ。それらの特徴はスタイリングにも大きく反映されている。まずは R 1200 GS との違いを見ていこう。
横幅の広い燃料タンクは見る者を圧倒するほどの存在感だ。最新アドベンチャーの燃料タンクは 30 リットル容量で、先代と比較すると3リットル減少となった。タンク上部にエアダクトが設けられていることから推測すると、おそらくこれはエンジンの空水冷化による影響だろう。ちなみにエアダクトの一部には小物入れも設けられており、有料道路対策の小銭や給油に使うカード類を入れておくのに便利そうだ。なお、タンクはアルミ製だ。
可動式スクリーンは GS 譲りだが、その形状は異なっており、面積が大きくなったことに加えて形状も変更されている。フロントノーズにつながる部分にはサイドフラップが設けられ、高速巡航時の快適性が高められている。また、ノーズ先端にエクステンションが装備されるのも GS と異なる。
重量増に合わせて足まわりは強化されている。サスペンションは前後ともにストロークが 20mm 延長された 220/200mm だ。これはおもにオフロードの走破性を高めるもので、同時に最低地上高も 20mm 上がっている。気になるシート高については 890/910mm と、GS よりも 40mm も高い。
注目したいのはエンジン内部で、クランクシャフトは約 900g 重いものが組み込まれている。これはクランクマスを増やすことでエンジン回転に落ち着きあるフィーリングを与えるためで、やはり長距離巡航時の快適性アップを狙ったものだ。この効果については試乗パートで触れたい。なお、エンジン出力に変更はない。また、ミッションとドライブシャフトの連結部にはダンパーが追加され、耐久性を向上させた。
その他、ワイドフットレスト、高さ調節可能なブレーキペダル、エンジン&タンクガード、シリンダーヘッドガード、パニアケースステーがアドベンチャーならではの標準装備で、おそらくこれらは GS にも流用装着可能なパーツ群だ。ホイールはクロススポークタイプのみとなり、キャストは選択できない。
R1200GSアドベンチャーの試乗インプレッション
GS らしさがより強調された
走りとエンジンフィーリング
結論から書いてしまうと、GS というバイクの魅力を “オンオフ問わない走破性”、“快適な巡航性能” に感じているのなら、ノーマルの R 1200 GS よりもアドベンチャーをお勧めしたい。なぜならアドベンチャーとはそれらの性能をさらに高め、洗練させたモデルだからだ。
しかしその際のハードルになるのは、大柄な車体だろう。スペック表で GS と比較してみると、全長 50mm、全幅 45mm、全高 40mm、シート高 40mm、車重 15kg と、アドベンチャーはすべてにおいてビッグでヘビーだ。燃料タンクはその大きさを意識しないよう、面の切り替えと色の使い分けによる巧みなデザインが施されているが、いざまたがろうとすると左右の張り出しの広さはごまかしようがなく、ライダーに有無を言わせない圧力をかけてくる。
それが燃料満タン時なら、またがってから車体を起こすのもやはり重量を感じる。たとえばこの状態で倒してしまったら、このバイクを起こせるのだろうかという不安もよぎる。足つきについても、お世辞にもいいとは言えないレベルだ。参考までに身長 175cm、体重 90kg の筆者の場合、ダイナミック ESA の設定を1名乗車、ライディングモードプロをロードにしたときの足つきは、両足のかかとがやや浮く程度。ESA のプリロードを積載時、2名乗車と上げていってもっとも車高を上げた状態で両足つま先立ち。尻をずらして片足だけをつけばかかとまで接地できた。ライディングモードプロとダイナミック ESA の設定しだいで足つき性はかなり変わるので、購入を考えている人で足つきに不安があるなら、試乗できずともこのあたりを確かめておきたいところだ。ちなみにセミアクティブサスはイグニッションがオフの状態だとダンパーが固定されてしまうため、本来の足つきを確認できない。足つきを確かめるときは必ずキーオンの状態にする必要があるから注意だ。
空水冷 GS の試乗インプレッション については、佐川 健太郎さんの記事を読んでいただきたい。アドベンチャーは派生モデルなので、基本的なところはほとんど同じだし、限界に近いところでの走りの性能についても佐川さんの感性のほうが正確だからだ。ここではおもに R 1200 GS との違いについて述べたい。
まずはステアリングダンパーが標準装備されたことによる違いだ。これは 2014年モデルの GS からも標準装備となったもので、2013年モデルのオーナーは気になるところだと思う。しかしながらこれについては、アドベンチャーの車重が増えていること、市街地走行という限界点の低いところでの試乗だったことにより、それを感じられなかったので(もちろん筆者のセンサーが鈍いせいもある)、他の試乗記を参考にしてもらいたい。
いざ走らせてみて GS との違いを感じる点は、車体とエンジンフィールのどちらにもある『重さ』だ。だがこれはけっしてネガではない。むしろ空水冷化されてパワーアップしたボクサーエンジンに、落ち着きと抑制が加えられたアレンジと言っていい。
燃料満タン時はさすがに重心位置が高くなり、車体を起こすにも「よいしょ」と気合いを入れてしまうが、この重さが作り出すハンドリングに鈍さはない。テレレバーによる安定性をいっそう推進している感があるが、重心位置が高くなるため、ハンドルやステップによる荷重変化を中心にして全身を使ってリーンさせると、さっと向きが変わるメリットがある。市街地の交差点、高速道路のレーンチェンジでも重さを意識する場面はなかった。
もうひとつ、クランクシャフトが約 900g 重くなったことによるエンジンフィールについては、はっきりと体感できる。スロットルを開けていくときの鼓動感、閉じたときの転がり感は GS と比べるとその重さを感じられる。このあたりは好みが分かれるところだと思うが、筆者は GS よりもアドベンチャーの抑制ある重さが気に入った。車重と車格、エンジンパワーとのバランスがいいのだ。
ちなみに R 1200 RT はこれ以外にマグネットホイールやバランスウェイトも増量されており、GS、GS Adventure、RT の順に重くなる。フィーリングとしては 1150 時代のボクサーに似ていて、ボクサーエンジンが生み出すトルクの輪郭が明瞭になった印象だ。敏感な人ならブリッピングだけでもわかると思うので、機会があったら3車種で試して違いを体感してもらいたい。
今回の試乗ではオフロードに持ち込めなかったのが残念だが、先代モデルの経験で言っておくと、これだけ巨体のバイクでも林道レベルのオフロードなら問題なく走破できる。もちろん未経験者がいきなり林道に行くのはお勧めしないが、トラクションコントロール(ASC)の威力はかなり大きく、標準装着されるオンロード寄りのタイヤであっても、ぬかるんだ上り坂を進めてしまう。そうした場面では ESA を操作して足つきを高め、2足2輪(まるでセローみたいだが)でバタバタと漕いでいると意外なほどに登れる。
また、転倒したときに起こせるかどうかの不安については、一般的な大型バイクの引き起こしができるなら、まず問題なくこのバイクも起こせるはずだ。というのもそもそも左右に張り出したボクサーエンジンは転倒時の角度を浅くするし、加えてアルミ製パニアケースを装着した状態ならもっと浅くなる。ツーリングで荷物を積載しているときはすべて下ろして重さを減らせば、たいていは大丈夫だろう。そこに不安があるなら、林道に行く場合は単独行を避ければいい。
1,200cc のデュアルパーパスバイクとなれば、けっして軽くはならない。とくに R 1200 GS はテレレバーやシャフトドライブなどの装備が車重に影響している。スペック表によればノーマル GS が 245kg、アドベンチャーが 260kg(ともに燃料満タン時)だ。この 15kg の差をどう捉えるかだが、延々と続くオフロードをひたすら走ったり、獣道のような山道を走ったり、はたまた GS トロフィーに参戦して好成績を収めたいというのでない限り、一般的なツーリングや街乗りにおいてそのデメリットが致命的になることは、ほとんどないと言える。もっとも重要な違いは足つき性だろう。そこさえクリアできるのであれば、アドベンチャーの大きさと重さは、GS というバイクの個性をより強く感じられる要素だ。
大柄な車体を軽快に走らせるのが楽しいのがノーマル GS ならば、アドベンチャーは戦車か戦艦かと思えるような豪快な乗り味がおもしろい。ハンドリングとエンジンフィールにある重さはそれらをいっそう強調させてくれるし、乗車位置が高くなることによる視界は純粋に気分がいい。走れば走るほどに、アドベンチャーの 15kg は重量ではなく、GS という BMW ボクサーのキャラクターをさらに明確にするものであり、むしろこれがあってこその GS とすら思えてくる。この重さは贅肉ではなく、冒険するために必要な筋肉なのだ。
R1200GSアドベンチャー プロフェッショナル・コメント
走破性&快適性、ワイルドさがアップ
空冷 DOHC モデルからの乗り換えでも満足
詳細な試乗インプレッション記事ということで、機能についての説明もたっぷりなされていると思いますので、私からは体感的な部分を重点としてご紹介します。まずは車体の大きさから。そのボリューム感のために信じられないかもしれませんが、一新されたフレームにより、車体全体がひと回り細くなりました。そのため、不整地での走破性が向上し、ハンドリングもさらに軽快さを増しています。シートレールの幅も細くなりました。これは足つき性の面でうれしい変更ですね。カタログ上のシート高には表れない部分ですので、ぜひご自身の体でご確認ください。
また、従来では後付けだった人気オプションの LED 補助ランプも標準装備となり、外観もいっそう迫力が増しました。車体、足まわり、電子装備による圧倒的な走破性・快適性向上に加えて、R 1200 GS Adventure の魅力のひとつである装甲車のような武骨さ、ワイルドさにも磨きがかかりました。アルミパニア&トップケースを装備した立ち姿には風格すら感じられ、パーキングエリアに駐車しているだけでも乗り手は一目置かれることでしょう。この点は、空冷 DOHC モデルからお乗り換えの方も大変満足していらっしゃいます。なお、非常に入荷の少ない車両ですので、現車確認や車両情報につきましては、お気軽に最寄りの正規ディーラーにご相談ください。(モトラッド湘南 市東 信吾さん)
R1200GSアドベンチャー の詳細写真
- 【前の記事へ】
R1200RT(2014-) - 【次の記事へ】
R nineT(2014-)
関連する記事
-
試乗インプレッション
R1200GSアドベンチャー(2010-)
-
試乗インプレッション
R1200RT(2010-)
-
インタビュー
小久保 宏登(コクボモータース 店長)
-
試乗インプレッション
R1200GS(2010-)
-
試乗インプレッション
HP2スポーツ リミテッドエディション(2010)