VIRGIN BMW | F800R(2015-) 試乗インプレ

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BMW Motorrad F800R

F800R(2015-)

  • 掲載日/2015年08月07日【試乗インプレ】
  • 取材協力/BMW Motorrad Japan  取材・写真・文/山下 剛

エントリーモデルの役割を担う F800R
2015年モデルは外装も大幅にアップデート

水冷の並列2気筒エンジンを搭載するFシリーズに、ネイキッドモデルである『F800R』が登場したのは 2009年のことだ。Fシリーズの先駆となった『F 800 S/F 800 ST』がベルトドライブ式だったのに対して、F800R はチェーンドライブ式を採用。上位モデルとなる『K 1300 R』の意匠を巧みに取り入れたエクステリアは、ストリートファイター風にまとめられており、高回転域でのトルクを強調した味つけのエンジンと相まって、単なる「BMW のエントリーモデル」には収まらない魅力を持って登場した。

もちろんエントリーモデルとしての特性はしっかりと持ち合わせており、低~中回転域での十分なトルクとニュートラルなハンドリング、足つきもよくコンパクトな車体は、大型二輪免許を取ったばかりのビギナーも不安なく乗れる。

2012年にはマイナーチェンジを受け、ラジエターシュラウドをはじめとする外装パーツの形状変更を受けた。

そして 2015年モデルではさらに大幅なアップデートを受け、特徴のひとつであった異径2灯ヘッドライトは1灯式へ変更され、ストリートファイター的なイメージを払拭。日常的にオールマイティに使えるネイキッドバイクとしてイメージの転換が図られた。

F800Rの特徴

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1灯式ヘッドライトと倒立フォーク採用による
F800R が本来持つアイデンティティを強調

BMW ラインナップのなかでは極めて一般的な構造を持つことが F800R 最大の特徴ともいえる。排気量 798cc の4ストローク水冷並列2気筒エンジンはアルミツインスパーフレームに搭載され、サスペンションはテレスコピックフォークと両持ち式スイングアーム+モノショック、駆動方式にはチェーンドライブを採用している。

一風変わった特徴としては、燃料タンクがシート下に配置される点で、エンジンの上にはバッテリーとエアクリーナーボックスが配される。もちろんこれはFシリーズすべてに共通する構造でもある。

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2015年モデルのトピックスは、正立式だったテレスコピックフォークが倒立式となったほか、トランスミッションのギア比の変更、ECU プログラム変更による最大出力アップ、ブレンボ製モノブロックフロントブレーキキャリパーの採用といった動力性能のアップデートに加えて、左右対称の1灯式ヘッドライト採用とサイドパネル形状の変更が挙げられる。エンジン出力は向上しているが、ボア×ストロークを含めたエンジン関連パーツの仕様変更はない。

ABS が標準装備されるのは従来どおりだが、『セーフティパッケージ』として ASC(オートマチック・スタビリティ・コントロール)と ESA(電子調節式サスペンション)をオプション装着できるようになったのはうれしいアップデートだ。純正ケースをそのまま装着できるラゲッジラックとパニアケースホルダー、センタースタンド、グリップヒーター、LED ウインカーは標準装備となっている。

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また、車体色によって価格が異なるシステムを採用したこともトピックだ。ベースカラーは『ライト・ホワイト』『ライト・ホワイト/ブラック・サチン・グロス』の2色で、『レーシング・ブルー・メタリック/ライト・ホワイト』と『レーシング・ブルー・メタリック/ブラック・サチン・グロス』は1万円高となる。

前述したとおり、ヘッドライトの形状変更は F800R のイメージを大きく刷新した。「あふれる刺激」を想起させるストリートファイター風のイメージは影を潜め、F800R が本来的に持っているフレンドリーさを感じさせるデザインとなった。賛否あるだろうが、F800R にはこちらのエクステリアのほうがしっくりとくるし、「K 1300 R の弟分」というイメージを払拭することで、F800R のアイデンティティがよりはっきり際立ったといえる。

F800Rの試乗インプレッション

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単なるエントリーモデルにとどまらない
グッドバランスのスタンダードモデル

今回試乗したのは『セーフティパッケージ』(2015年8月現在で消費税込み 10万8000円)が装着されたモデルだ。前述のとおり、これは ASC と ESA がセットになったもので、従来の F800R には装着できなかったシステムでもある。

ASC は、いわゆるトラクションコントロールで、リアタイヤのスリップを検知するとエンジンの点火をカットしてトラクションを維持するものだ。砂利道や雨天時など、路面ミューが低い場面で有効的なこの電子制御テクノロジーは、ABS 同様にライダーを強くサポートしてくれるセーフティ装備である。

ABS も ASC も “機能させないに越したことはない” 装備である。腕に覚えがあるならブレーキ時にタイヤをロックさせることも、加速時にリアタイヤをスリップさせることもないだろう。しかしそれをいつどんな場面でも成功させられるライダーは、ごく稀である。とくに唐突な状況変化によるパニック時にはそれだけ正確なブレーキングやスロットルワークはできないと思ったほうがいいだろう。これらの装備は “任意保険のオプション” という捉え方をして、購入資金に余裕を作ってでも装着したほうがいい、というのが筆者の考え方だ。

ESA は電子調節式サスペンションで、リアサスペンションのリバウンド(伸び側)を手元のスイッチを押すだけで『コンフォート』『ノーマル』『スポーツ』の3種類から選ぶことができる。RシリーズやKシリーズに搭載されるものを簡易化したものではあるが、タンデムや積載時にスイッチだけでリバウンド特性を変化させられるメリットは大きい。

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さて、試乗インプレッションに移ろう。日本仕様に装着されるシートは、ドイツ本国でも標準となるもので、シート高は 790mm。スポンジは薄めだが、コシがしっかりとしており、イヤな硬さは感じられない。座面は広く、どっしりと腰を下ろすタイプで、スポーツ走行における荷重移動にはやや不利だが、街乗りをはじめとしてロングツーリングでも疲労が少ないタイプだ。F800R の特性を考えれば適切な形状である。ちなみにオプションには高さやスポンジ厚の異なる4種類のシートが用意されており、ローシート(780mm)、エクストラローシート(770mm)もある。

乗車姿勢は上半身にゆとりがあり、広めのハンドル幅と相まって安心感のあるポジションをとれる。サイドスタンドをかけた状態からの引き起こしも軽く、またがったときの印象はとてもフレンドリーだ。ビギナーでも扱いやすいだろうし、「軽いバイクがほしい」と感じているベテランにも好まれるだろう。

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他のFシリーズ同様、スタート時にクラッチをつなぐ極低回転域でやや滑らかさに欠ける印象があるものの、トルクの特性は低回転域から高回転域まで力強い。しかし初期の F800R から引き継がれる中~高回転域での伸びやかで強烈なトルクは刺激的ですらあり、F800R が単なるエントリーモデルでないことを強烈にアピールしてくる。

ECU プログラムの変更によって最大出力が3ps アップした 90ps になったが、これは 3,000rpm あたりからでもしっかりと感じられる。すぐに加速したい場面でもスロットル開度が少なくて済むし、街乗りやツーリングにおいてゆったりと流すペースで走るときでもエンジン回転を抑えられる。

さらに4~6速のミッションがショート化されたこともあり、非常にバランスよくまとめられている印象で、とくに一定のペースで流して走るときに有効だと感じた。また、4~6速のつながりがスムーズになった印象で、扱いやすさにいっそう磨きがかかっている。デビューから6年、第3世代となって熟成が進んだ感がある。

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もちろんニュートラルなハンドリングは健在だ。小さな交差点を曲がるときやUターンでもステアリングが切れ込むことはなく、ごく自然にコンパクトに曲がれる。それでいて加速時や巡航時の直進安定性にも優れている。このクラスとしては異例ともいえる 1,526mm の長いホイールベースが効いているのだろう。また、倒立式となったフロントフォークは剛性アップに大きく貢献しており、強めのブレーキ時の安定感も増している。ABS と相まって、躊躇することなくブレーキを握れる安心感は大きい。

Fシリーズは BMW の入門的側面を持っているが、シンプルでベーシックな F800R を走らせてみると、けっしてそれだけではない上質さを感じられる。BMW というメーカーの “バイク作りの巧みさ” を感じられるバランスの良さがあるのだ。それでいて気負わずに毎日乗れる親しみやすさがあり、オプションのケース類を装着すれば通勤・通学からツーリングまでなんでもこなせるし、長く乗れるバイクになるだろう。

F800R プロフェッショナル・コメント

誰とでも相性の良いバイク
車両選択に困ったら F800R に乗ってください

このバイクの特徴は、購入されているユーザー層が特定できないところです。ほとんどの車種にはディーラーとして「これくらいの年代で、これくらいのバイク歴」なんていうイメージがありますが、F800R だけは本当に幅広い層から人気があるのです。

ふだんはツーリングで使用しつつ、サーキット走行会にも参加されるという方もいれば、まったくの初心者で、街乗りから始められる方もいます。排気量 800cc というサイズは、日本人の体型や日本の道路事情にベストマッチ。「乗りやすい」「軽い」と、お客さまにはいつも好評です。当店にも試乗車がありますので、一度ご体感ください。どんな方とも相性が良く、車両選択に困ったら F800R に乗ってみるのも手だと思いますよ。(モトラッド豊田 店長 長坂 賢司さん)

取材協力
住所/愛知県豊田市永覚町下長38
Tel/0565-21-8555
営業/10:00-19:00
定休/火曜、第1・3水曜

F800R の詳細写真

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エンジン構成パーツに変更はないが、ECU プログラムの変更によって排気量 798cc 水冷並列2気筒は 90ps へとパワーアップ。よりフラットな特性となり、全域に渡って扱いやすくなった。
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エアスクープを持つサイドカバー形状も一新され、シンプルながらもシャープな印象を獲得した。車体色によってサイドカバーの色も変わり、ホワイトとブラックの2パターンがある。
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テレスコピックフロントフォークは、正立式から倒立式へと変更された。これによって剛性が高まり、加減速時の安定性も向上している。
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アピアランスを大きく刷新する左右対象の1灯式ヘッドライトとなったフロントマスク。扱いやすさに長ける F800R の個性をよりイメージしやすいデザインだ。
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倒立フォークの採用に伴い、フロントブレーキキャリパーも変更。マウント方式はラジアルとなり、ブレンボ製のモノブロックキャリパーが装備される。もちろん ABS は標準装備だ。
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ハンドリングの安定性を高めるステアリングダンパーも、BMW の他モデルと同様に標準装備。トリプルクランプの下に設置されている。
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両持ち式スイングアームとモノショックのリアサスペンションに、チェーンドライブを採用する足まわりは、前モデルから継承される。
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シート下に配置される燃料タンクは、Fシリーズの特徴のひとつで、容量 16 リットルを確保。給油口はサイドスタンドを立てた状態で満タンになる角度になっている。
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ドイツ本国仕様と同じ標準シートが装着され、シート高は 790mm と足つき性も良好。座面は広く、ロングツーリングでの疲労も少ない。
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シートを外した状態。シート裏には片口スパナ、トルクスドライバーなどの車載工具が装着されている。ETC 車載器を搭載できるスペースも確保されている。
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モノショック式リアサスペンションにはオプションで ESA を装着可能。プリロード調整は、写真右上にあるダイヤルノブで行う。車載工具を使うと楽に調節できる。
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テールランプ形状は前モデルより踏襲。日本に輸入される F800R は、グリップヒーターなどと合わせて LED 式ウインカーも採用されている。
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一般的に燃料タンクが配置されるエンジン上部にはバッテリーとエアクリーナーボックスが配され、樹脂カバーで覆われている。給油口がないため、吸盤やベルト式のタンクバッグの装着に適している。
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ボクサーエンジンとよく似た排気音を出すマフラーはステンレス製。パッセンジャーの足を熱から守るためのヒートガードが装着されている。
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BMW 全シリーズ共通形状を持つ左側のハンドルスイッチには、ESA 切替ボタンと ASC オンオフボタンが配置されている。ボタンには確かなクリック感があり、操作しやすい。
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速度計、回転計、インフォメーションパネルで構成される計器類。デザインは前モデルから踏襲されるが、文字盤は刷新されている。液晶画面は文字が大きく表示され、視認性が高い。
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純正トップケースをそのまま装着できるリアキャリアを標準装備。グラブバーも兼用しており、形状、太さ、位置はどれもバランスが良く、パッセンジャーの安心感を大いに高める。
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パニアケースホルダーも標準装備されており、購入時の出費を抑えられる大きなメリットがある。ケースを装着していない状態でも目立ちにくく、バッグ類を固定する際にも活用できる。
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センタースタンドも標準装備。ドライブチェーンのメンテナンスやリアホイールの洗浄、不整地での停車、積載時の高い安定性など、メリットは多い。バランス良く取り付けられており、リフトアップは容易だ。

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