最終回 ショートインプレッション
バイクのシェイプアップ
R1200RT・R1200ST は先行デビューした R1200GS と同じく軽量設計であり、あちこちにその努力の痕跡が伺える。ところが、旧モデルに対して軽量であることは、すでに当たり前のこととして消化されており、R1200GS と違ってカタログ上でも目立ってアピールしてはいない。
しかし、特に R1200RT はこれだけの装備品と大型カウルを持ちながら、この重量におさまっているのは評価しておきたい。エンジン、パワートレインなど車体関連では明らかに軽くなっているが、動力性能の向上により巡航速度が高くなり、それに伴って車体に要求される諸条件も高くなるからだ。
たとえば風圧だ。スピードが上がればカウルにかかる風圧も大きくなってくる。実はカウル本体の重量などたかが知れている。風圧という高荷重に耐える構造体としてバイクを設計すると、カウル以上に車体構成が強固でなければならない。さらに、大型のウインドスクリーンを可動式にすると、強烈な風圧(荷重)に押されているスクリーンを動かすために、駆動トルクの大きい巨大なモーターと高強度のブラケットが必要になる。これも重量増の要素のひとつだ。
また、フューエルタンク容量の拡大によって装備重量が増加しているし、パニアケースは本体の剛性のみならず、車体への取り付け強度を高めており、トップケースの装着率も高いだろう。タンデム乗車は常識だ。車体にかかる荷重は増える一方だ。積めれば良いというわけにはいかない。このような高荷重条件の中で、高速安定性と操縦性を維持するのは尋常ではなく困難だ。しかし、タンデム乗車に加えて最大積載状態で安定して高速巡航ができなければ、BMW の商品価値はない。これは昔も今も BMW バイクにユーザーが要求する大前提だ。
これを解決する簡単な方法はホイールベースを伸ばしたり、車体を大きく重くしたり、逆に空気抵抗の少ない小さなカウルを取り付けることだ。ハンドルを下げてライダーを前傾させてもいい。しかし新型 R1200RT はいずれの方法もとらなかった。
新 R1200RT は軽量化できる要素よりも重量増の要素が高くなっているのにもかかわらず、大幅な軽量化を達成している。それが R1200GS を含めた過去のモデルとの違いだ。軽量化はあくまで贅肉のシェイプアップの成果で、パワーとスピードアップと快適性のために骨格と筋肉が増強されている。プラスチックのダークスーツの下には鍛えあげたマッスルボディが隠れているのだ。
モノ造りとデザイン
BMW といえば RS が一番。RT は不人気車の時代があった。R100RS のアップハンドル・大型カウル版であり、他にはパニアが標準で付くくらいで、フラッグシップはいつも RS であった。それはKシリーズの RS と RT(LT)も同じだった。70~80年代のことだ。
1992年の R1100 系からは、車種ごとのコンセプトにそった装備やデザインが明確化。1994年発売の R1100RT はウインドプロテクションに優れた専用カウルを持つようになり、設計と造り込みの良さもあってヒット、R1150RT からは GS とトップを争う人気車となった。日本市場での一番人気は RT となった。
BMW は、GS に続きヒット作のフルモデルチェンジという難題に挑むことになったわけだ。この場合、R1100RT から 1150RT のビッグマイナーのように、見かけ上は先代のイメージを引継いだデザインをリファインする手法が定石だ。特に RT は他車種よりユーザーの年齢層が高く、保守的なモデルチェンジが望ましい。
ところが、あえて従来の丸っこいカタチを捨て、エッジの立ったアグレッシブなデザインを採用した。R1200RT も R1200ST も立体をナイフでズバズバとえぐりとったような(軽量化をイメージさせる)デザイン処理が散見される。まるで一刀彫りの彫刻のような手法だ。単純に旧型と見た目が違うという意味ではなくて、面構成や線の断ち割りが全然違うのだ。同じメンバーのデザイングループの仕事であることを考えると興味深いものがある。同時期に発表された、新しいヘルメットやウエア類も統一感を持たせてあり、R1200RT・R1200ST のデザインを構築する重要なアイテムだ。
こんなの BMW じゃないという声も確かにある。しかし、初代 R100RS や R1100RS・R1100RT や GS、KやFのデビューの時にも同じことを言う人は少なからずいたものだ。今は目に慣れない変なカタチであっても、それはそれでいい。モデルスパンの長さを考えると、数年先にはおとなしい平凡なデザインになっているかもしれない。モデルサイクルの終わり近くになっても、新鮮さと個性を失わないよう充分に計算されているのだ。
おそらく、商品企画の段階では、いかにも後継車っぽい無難なカタチは候補にも上がらなかっただろう。BMW というのはそういう企業なのだ。成功・失敗は今後のセールス台数が証明するだろう。
攻めのスタイル
現行車のユーザーにとって BMW と言えば「保守的」あるいは「定番」といったイメージをいまだに持たれているように思う。ところが、現実の BMW というメーカーは何を仕掛けてくるのかまったく予想のつかない、「革新的」な思想を持つメーカーだ。もともとバイクとは、こういうモノだという発想に縛られてはいない。
BMW の社内には部門ごとにデザインチームが設けられている。四輪・二輪・ミニ・Mシリーズ・ロールスロイスの5部門だ。
BMW モーターサイクルはデビッド・ロブ氏率いるデザインチームでデザインされている。チームの最初の仕事はあの(ある意味奇怪な)R1100GS だ。以降、R1100/1150 系、K1200・Fシリーズも彼らの仕事だ。いずれも他のメーカーのバイクとは似ても似つかないデザインであった。今回の R1200RT・R1200ST も彼らの仕事である。
BMW グループデザイン部の統括ディレクターは四輪部デザインチームの長、クリス・バングル氏である。R1200RT・R1200ST の発売と同時期、四輪部門のエース、3シリーズもフルモデルチェンジしたが、ヒットした先代3シリーズの流麗なデザインから一転して、エッジの立ったいかついデザインを採用した。その前の Z4、7や5シリーズも、ヒット作の後継車にもかかわらず、過去のデザインやユーザーを断ち切るような変わりぶりだ。
つまり、二輪・四輪のいずれも、申し合わせたわけでもないだろうが、なんとなく似ているのだ。しかも、一見しただけではすぐに受け入れられるとは思えないカタチで出してきた。主力車種でありながら、他メーカーのみならず、既納ユーザーのセンスに挑戦するがごときデザインを採用しているのは非常に興味深い。
これは、二輪・四輪が同じコンセプトでデザインされたのではなく、BMW ブランドの統一された「スタイル」を提示したと見ることができる。スタイルというのはモノのカタチを意味すると同時に、姿勢・考え方・行動・様式(商品の、企業の、ユーザー層等)を意味する。
ではどんな「スタイル」なのかと言うと、私見だが「攻めのスタイル」と見る。二輪部門では K1200S、HP2 がすでに発表され、それに続くモデルもスクープ画像が WEB 上を飛び交っている。三台の新型車はストーリーのプロローグにすぎない。過去、類を見ないような弾けっぷりだ。
現状にとどまることなく、新しいモノ造りにチャレンジし続ける「攻めのスタイル」を提示し、過去のユーザーを断ち切るように見えて、巧みに「BMW のスタイル」に誘導しているように思える。
はたして新しい RT・ST はいったいどんな方に選ばれるのだろうか。もし、行動や心に「攻めのスタイル」を持つ方が選んだなら、BMW の思惑は外れていない、ということだろう。
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