第5回 Kモデルの登場
- 掲載日/2006年12月23日【BMWバイクの歴史】
R100シリーズの登場
フルフェアリングの時代
世界中のモーターサイクルジャーナリストを驚かせた「R90S」の登場から3年後、1976年に「R100」シリーズが発表されました。排気量が歴代最大の980ccに拡大されたことに注目されがちですが、特筆すべきことは他にもありました。
「R100RS」には「R90S」からさらに進化したフルフェアリングが装備されていたのです。風洞実験を重ね完成されたこのフェアリング、長距離走行が多いBMWオーナーから大いに歓迎されました。「BMWは雨の日に乗っても濡れることはない」。そんな話が語られるようになったのは、この「R100RS」からです。
現行モデルでもBMWには機能性・デザイン性の高いフェアリングが採用されていますが、これは1970年代のBMWから始まったことなのです。その後に発売された「R100RT」にはさらに機能性を高めたフェアリングが採用され、BMWといえばフェアリング付きモデルをイメージする時代が始まりました。
メーカー各社もBMWが採用したフェアリングには注目し、他メーカーからもフェアリング付きのモデルが発売されるようになってきます。フェアリングがモーターサイクルに装備されるようになった時代、それを切り拓いたのはBMWだったのです。
また、BMWがパニアケースを純正オプションとして販売しはじめたのも1970年代からです。今でもその名が高い「クラウザー」の手によって設計されたパニアケースはBMWのデザインを崩すどころか、そのスタイルをさらに上品なモノにしてくれるモノで、ツーリング時にも非常に重宝するものでした。
1980年「R80G/S」の登場
BMWの新境地のスタートです
80年代入ってもBMWの革新はやむことがありません。むしろ革新の動きは加速したといえるでしょう。1980年には現行モデルにもその名が冠せられている「GS」モデルが発表されます。
オフロードからオンロードまで、走りたいところなら、どこでも走りに行くことができる「GS」モデルの歴史は1980年から「R80G/S」からスタートするのです。ツーリングバイクのイメージが強いBMWですが、戦前からISDT(International Six Days Trial)などのトライアルレースに参加しており、「GS」のコンセプトは縁遠いものではありませんでした。
1970年代にもISDTに出場しており、そこからのノウハウをフィードバックして「R80G/S」が開発されたのです。粘りのあるエンジンに片持ちのリアサスペンションなど、その後の「モノサス」モデルにも通じる革新的なモデルであり、「大排気量のオフロードモデル」はそれまでにはなかったため、BMWはまたもや新境地を切り拓いたと言えるでしょう。
パリダカールラリーでの優勝の実績もあって「R80G/S」は高い評価を受けましたが、認められたのはオフロードでの性能の高さだけではありません。ON/OFFのどちらも軽快に、楽しみながら走ることができるバランスの高さ、走破性の高さが人気の秘密でした。
「R80G/S」以降、エンジンの変遷に関わらずBMWは常に「GS」の名を冠したモデルを生産し続けています。ピュアオフローダーではないけれど、マルチに楽しめる新しいBMWのコンセプトモデル、それが「GS」モデルなのです。そんな特別なモデルが発表された1980年はBMWにとって特別な年に数えられるでしょう。
新設計のKモデルの発表
ニュージェネレーションの登場です
80年代には「GS」モデルの登場以上にエポックメイキングな出来事がありました。新開発のBMWニュージェネレーション「K」モデルの登場です。伝統的な水平対向2気筒エンジンでは、性能向上が著しい日本車への対向や、将来的に規制が始まると予測されていた排気ガス規制、騒音規制への対応は難しいと当時は判断されていました。そのため、巨額の開発予算を投下し将来のBMWを引っ張る新しいエンジンの開発を進めていたのです。その発表は驚きをもって迎えられました。
しかし、水冷4気筒の新しいエンジンは他メーカーのエンジンとはまったく違う、新しいシステムが盛り込まれており、「K」モデルが秘めたポテンシャルの高さは次第に受け入れられていきました。
「K」モデルが採用した新システムの中でも特筆すべきなのは、市販モーターサイクルでは初となったEFIシステムです。点火と燃料をコンピューターで制御するこのシステムはBMWの自動車部門で実績のあるシステムで、BMW Motorradの先進性を表すモノでした。BMWは「K100」という名が冠せられたシリーズを販売し、従来からラインナップされていた「R100」シリーズとの世代交代を考えていたようです。
実際に「R100」シリーズが一時ラインナップから落ちてしまった時期がありましたが、世界中の「R」モデル愛好家からは引き続き「R」を生産して欲しいという声が止むことはありませんでした。BMWも「R」モデルに手をかけていなかったわけではありません。「R100」シリーズはラインナップから落ちていたものの、「R80」などのモデルではエンジンの改良、「GS」モデルから受け継いだ片持ちのリアサスペンションなどの採用が進み、「R」モデルも少しずつ進化はしていたのです。
「K100」シリーズと排気量が重なる「R100」シリーズ、このシリーズを今後どうするのか、その議論がBMW社内であり、ユーザーの声に押される形で「R100」シリーズは1986年から再びラインナップに登場します。「K」という新しいジェネレーションが登場する中で伝統的な「R」も技術革新をしつつも残していく。BMWのこの決断は世界中のBMW愛好家から拍手を持って迎えられました。
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