第2回 戦前BMWの盛衰
- 掲載日/2006年07月14日【BMWバイクの歴史】
進化が著しい
1930年代のBMW
1920年代後半からレースで走るBMWには「スーパーチャージャー」が搭載され始めました。スーパーチャージャーとは、エンジンの動力を利用し圧をかけて混合気をシリンダーに供給する仕組み。このシステムのおかげでレースでのBMWの実力は際立ちます。
また、1929年に高名なレーサーであった「エルネスト・ヘンネ」がスーパーチャージャーを搭載したBMW「R63」でアウトバーンを走行し、時速216kmと当時の世界最高速度を記録します。当時のBMWの強さはレースや最高速度への挑戦で世に大きく知られていました。BMWの名を知らしめるのに活躍した「エルネスト・ヘンネ」は、この時代のBMWを語る際には欠かせない人物です。
1929年に世界記録を更新してから、ほぼ毎年世界記録を更新し続けています。1937年には時速279kmという世界記録を打ちたて、その記録は1951年まで破られることがありませんでした。
その名が世界に広がるのに合わせて、BMWのラインナップは単気筒198ccからフラットツイン748ccまで幅広いものになってきました。ニューモデルが登場するにつれ、当然ながらその装備も進化し続け、信頼性の高いモーターサイクルとしてさらに進化を続けます。
特に1930年代はBMWの基本装備が大きくレベルアップした時期だと言えるでしょう。従来はフラットツインモデルでもシングルキャブが標準でしたが、1932年から各モデルに「アマル社」のツインキャブが採用され、その性能は大きく向上します。
他にも従来のハンドチェンジ変速システムから、操作が簡単なフットチェンジが採用されたり、ギアが1速増え4速ミッション車が登場したりと性能だけでなく、操作性も大きく向上する機構が採用されています。
BMWが切り拓いた
前後サスペンションの革新
1930年代には非常に革新的な機構がBMWで開発されました。それは「テレスコピックフォーク」の登場です。BMWにテレスコピックフォークが採用されたのは1935年のこと。「R12」、「R17」に初めて採用されました。
今ではほとんどのメーカーのモーターサイクルが採用しているテレスコピックフォーク。それはBMWが開発し、その特許を保有する技術でした。そのため、他メーカーはしばらくこの画期的な装備を自社の車輌に搭載することができず、BMWが大幅にハンドリング性の向上させるのを黙って見ているしかありませんでした。当時の道路状況は、舗装されていない荒れた道も多く、路面からの衝撃を緩和するサスペンション性能の向上は大いに歓迎されたと言います。
それまでの「ガーターフォーク」の時代から「テレスコピックフォーク」の時代へ、BMWがその扉を切り拓いたのです。また、現代のリアサスペンションに相当するシステムもBMWには1938年に「R61」、「R51」に採用されました。非常にシンプルなシステムではありますが、リアフレームにテレスコピックと同じ原理のサスペンションが搭載されたのです。
サスペンションの革新がBMWに与えた影響は非常に大きいものでした。前後サスを利用し、路面からのショックを吸収することができ、他メーカーのモーターサイクルに比べ格段の信頼性を手に入れることができたのです。
その信頼性の高さゆえ
戦時にも活躍したBMW
時間をかけて進化を続けてきたBMWの高い性能と信頼性は官公庁からの評価が高く、多くの車輌が納車されました。中でも、未舗装路でも安定して走れるその信頼性は軍からの評価が高かったといいます。1930年代も後半に差し掛かるとナチスドイツが台頭し、再軍備を始めます。そういった時代の流れの中で、軍の機動性をあげるため、多くのBMWが軍に納入されました。
第二次大戦が始めると、BMWモーターサイクルの多くは軍に向けて生産されるようになり、軍からの要望で平時では使用用途がないようなモデルまで登場しています。その代表的な例として、「R75」が挙げられます。R75はサイドカーが標準装備されたモデルで、3人の兵士が乗ることができ機関銃を装備したまま、未舗装路を走り、川を渡り、時には砂漠での移動にも活躍しました。
しかし、第二次大戦で軍需生産に大きく携わったBMWの生産設備は戦争末期には大きな打撃を受けます。戦後には連合軍により、工場の解体が行われたり、BMWの持つ技術が米ソ両国に持ち帰られたり、と企業存続の危機にまで陥ったのです。それまで輝かしい歴史を作ってきたBMWの2度目の窮地でした。
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